Uno sguardo innocente(2215←骸) 「――何を見ているんですか」 背後からかけられた声に、雲雀はぴくりと身体を震わせた。 振り返ると、いつの間に入ってきたのか切れ長の眼差しを湛えた六道骸がゆっくりと歩みよってくる。 「一応ノックはしたんですがね。君が頬杖ついて――珍しい」 いつも襟を正し常に緊張感を漂わせている雲雀が、骸の侵入に直前まで気付かないほど無防備に全神経を一点に集中させていた。 「……」 「あ、ああ。なるほど」 無言でやり過ごす雲雀を気にすることなく、彼の視線の跡を追った骸は目元を緩めた。 「跳ね馬ですか」 窓の向こうの跳ね馬ことディーノは校門に乗りつけた車を降りると、偶然出会った沢田や山本と楽しそうに談笑をしていた。 「確か君と跳ね馬は師弟関係でしたか」 不適に笑う骸に、雲雀は初めて視線を合わせた。 「戦うなら相手するよ。くだらない話に付き合う気はないからね」 「今日は遠慮しておきましょう。二人を相手にする余裕はありません」 「二人?」 「跳ね馬もこちらが気になるようです」 雲雀の背後から身を乗り出している骸は、こちらを見上げたディーノと目があった事を揶揄した。 骸に気付くと穏やかだった眼差しが深く顰められた。 「ちょっと、何が言いたいの」 「いいえ?…ただ、羨ましいだけです」 「羨ましい?」 「ええ。誰かを想い感情を露わにするのは愚かな事だとは思いますが、それも悪くないかと最近思い始めましてね」 「何を言ってるかわからない。いい加減、目障りなんだけど」 それでも雲雀はいつものようにトンファーを構える仕草を見せない。 今までなら考えられないことだが、ディーノを見つめていた眼差しを思い出すとその違和感は払拭される。 (跳ね馬…の影響ですか) 満足げな骸に、雲雀の表情が段々と知るものへ変わってゆく。 彼を変えたのは間違いなく、ディーノだろう。 大事に可愛がり慈しみ――やわらかさを与えた。 けれど、それと同じように自分にも雲雀を元の彼へ動かす力があるのだと思うと、楽しくてたまらない。 自分の行動一つで普段は冷静な二人が翻弄される様は滅多に見られるものではない。 「君にこれ以上嫌われるのは嫌ですから、今日は大人しく帰る事にします。ではまた」 にこやかに楽しそうに頷きを返す骸を、雲雀がいつものように睨む。 「もう来ないで」 雲雀がそうやってため息をついた頃。 骸の表情がほんの少しだけ悲しげに揺れたことに、雲雀は気付かなかった。 2011.11.18→12.20 |