T わがまま

「私だってね、暇じゃないの」
「煩え」
「だからね、そんな近所にお使い頼むみたいに日本に行けって言われても無理なんだよ」
「行け」
「通販でも良いでしょうが!お餅くらい!」

 このわがままボスには呆れる。朝っぱらから部屋に呼び出されて、嫌な予感がしつつ来てみたらこれだ。突然お餅を食べたくなったから、と言って私に日本まで買いに行けと言うのだ。スクアーロが居ない代わりにそんな扱いを受けている。はよ帰って来いロン毛。
 そもそもお餅くらいならここイタリアにもある。なぜ本場にまで買いに行かねばならないのだろうか。そりゃ日本で食べたお餅は美味しかった。このボス、XANXUSはあまり噛まずに飲み込む悪い癖を持っているから毎回喉につまらせるのだが。それでも偶に食べたくなる食感に味であることは認めよう。

「でも私、この後任務があるの!」
「知るか」
「あんたここのボスでしょうが!」

 XANXUSは私たちが所属するマフィア・ボンゴレファミリーの暗殺部隊であるヴァリアーのボスだ。私はその幹部である。その為、お風呂と寝るの時以外は雲のヴァリアーリングを常に指に嵌めている。これがとても痒い。任務の時は手袋の上に嵌めるのだが、これが余計に痒い。

「とっとと行ってこい、任務に間に合わねえぞ」
「その間XANXUSは何すんの?」
「寝る」
「正直者め!」

 XANXUSの部屋で地団駄を踏むと、また煩えと言われてしまった。私だってもう26歳になる人間が地団駄を踏んで良いとは思っていない。けれど、これは仕方がない。だって昼寝する奴の為に日本に行くなんて嫌なのだから。専用ジェット機を出しても時間はかかる。どう計算しても任務までには戻って来られない。

「あ!じゃあさ、一緒に行こうよ」
「は?」

 XANXUSの言うことを聞いたら、せっかくの自分の仕事を他の人に譲ることになる。それであれば責任取ってあんたも来い作戦だ。

「流石の私でも行ったら任務までに戻って来られない。それはボスのせい。なら、ボスも一緒にいたらその証明になるよね」
「は?」

 そもそも自分で買いに行くのが面倒だという事ではなく、ただただ私に命令したいだけなのだ。この子はかまちょなのだ。であれば、じっとり構ってあげたら良い。私はヴァリアーで一番優しい。

「自分で買いに行った方が美味しいと思うよ、お餅」
「は?」

 そもそも私に買わせに行ってきちんとお餅を買って帰る保証などない。お餅が無ければ銃でもぶっ放せば私への罰にはなるが、それではお餅は食べられないままというもの。自分で買った方が確実ですよ、ボスさん。

「あ〜あ、私円持って無いんだよなあ。かと言って人の金を借りるのもなあ」
「は?」
「じゃあ仕事はベルに任せてくるね。ジェット機の用意もするから、出かける準備だけしといて」

 そう言って部屋を後にする。最後のは?は微かに聞こえるかくらいでドアを閉めた。このヴァリアー邸は大変優秀な構造をしており、ドア一枚もきちんと音を遮断できる。
 XANXUSは面倒だがちょろい。わがままばかりを言うが、それに対し私が誘ったらちゃんと乗ってくれるのだ。正直今回の任務は楽しみで出たかったから遠回しのお誘いを断ろうとしたが、ここまで熱烈に誘われたら仕方がない。一緒にお餅を買いに行ってあげよう。

 ベルに落ち合う連絡をしつつ小型ジェット機の用意をさせる。部屋に寄って外出の準備をしてからベルに仕事の引き継ぎをしてXANXUSの部屋に向かう。ベルには「久々にたくさん遊べるわ」と感謝された。良いよね、お屋敷に侵入して敵ファミリーの一拠点を制圧するの。やりたかったな。報酬がっぽがっぽよ。

 XANXUSの部屋に着くと彼は既に準備を済ませていた。日本で買い物をするのに馴染むよう、スーツに身を包んでいる。ほらほら、楽しみなんじゃん。ちなみに私はごくごく普通の私服を着ている。スマホの日本語翻訳アプリで会話を試みたらもうどこからどう見ても外国人旅行客になるであろう。まあ隣にいるのがスーツになるのだが。

「それじゃあ行こっか」
「ふん、とっとと帰るぞ」
「ゆっくりしようよ」

 わがままで態度がデカくて顔が怖くてすぐ怒ってすぐ癇癪起こして、でも実はとても可愛らしい赤ちゃんのような彼が大変お気に入りなのだ。

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