]T 恋愛相談

「何で俺が呼び出されてんだあ」
「だって昼だし暇でしょ」

 私はスクアーロが非番の日に近所のカフェへと連れ出した。ヴァリアーの人に聞かれては困る事を話す為、こそこそとやって来たのだ。スクアーロは声がデカいが、店なら音量を控えるようにしてくれるだろう。聞かれては困る事というのはXANXUSの話である。勿論彼である事は伏せて話すのだが。
 客はほとんどおらず、この店は大丈夫なのか?と関係の無い心配をする。私は先にカフェに来ており、アイスカフェラテを頼んでいた。急な呼び出しにも関わらずすぐに来てくれたスクアーロが頼んだホットコーヒーが運ばれてから本題に入る。

「スクアーロは婚前交渉をしてしまった相手から求婚されたらどうしますか?」
「はあ?」

 何言ってんだこいつ、という顔をされるが、仕方ない。ルッスやベルはスピーカーだし、マーモンは前に話を聞いてもらった為に次は高くつくだろう。レヴィは論外。幹部以外の部下に相談するのはプライドに関わる。また、ヴァリアー外の人間に気軽に相談できる人などいない。結果スクアーロに聞くしかなくなったのだ。我慢しろ。

「別に、俺はこんな仕事だから断るわな」
「でも、相手も似たようなもんなの。ずっと親しくしてたんだけど、ついついやっちゃって、その後なんやかんやあって、プロポーズされて……」
「お゛いおい、お前の話なのかあ」

 そう言うとスクアーロは真剣な表情をしてコーヒーカップを見つめる。根は真面目な為、面白い程に真剣になってくれるのだ。だからこそ、任務前の作戦会議も円滑に進む。それがここで生きているのだ。

「別にやっちまったくらい関係ねえよな。問題は相手との関係性と俺らの仕事だ。相手も似たようなもんだとしても、やはりいつ死ぬか分からない以上、無責任な事は出来ない」
「そうだよね、情事のことは飛ばして」
「う゛お゛ぃ……」

 いつもより力のない「う゛お゛ぉい」で心配になる。それだけ頭をフル回転させているのだ。人の恋愛事情に真剣になる姿はとても面白い。恋愛事情では無いけど。

「そいつと仲良いってどのくらいなんだ?」
「突然海外旅行行っちゃうくらいには」
「めちゃくちゃ仲良いじゃねえかあ」

 でも友達と男女の関係はまた違うしな、いやでも体の関係はあるのか……とブツブツ言いながらまたコーヒーカップを見つめるスクアーロ。真剣に相談したかったのに、いつしか彼の反応の面白さがメインになりつつある。

「アレスはそいつのこと好きなのか?」
「分かんないんだよね。そう言う目で見たことはなくて。性的な目では見たけど」
「少なくともそれが出来たら第一関門突破だよな」
「まあ、確かにそうかも」

 そう考えたら一番結婚相手に近いのはXANXUSという事になるのか。他に体を重ねた人間は皆殺したし、そんな雰囲気にならなければ欲情もしない。生きている中では一人勝ちである。

「でね、私のこと支えたいって言ってくれて」
「お前危なっかしいもんなあ」
「初耳なんだけど」
「まあ俺は職務外で支える気は全く無ぇけどな」
「余計な一言ね」

 するとスクアーロがニヤニヤし始めた。おっ、余裕が出来てきたね。その顔はウザいのでとっとと切り上げて買い物にでも出かけてしまいたい。面白く悩む姿以外は面白くない。

「早速結婚が急だと思うなら、結婚を前提に付き合ったらどうだ?」
「ちなみにスクアーロにその経験は」
「ねえな。ワンナイトだ」
「私と同じだね。毎回殺してるけど」
「おいおい一緒にすんな」

 でもとりあえず付き合ってみる、それは良いかもしれない。付き合うというのが何かは分からないが、ひとまずここでは結婚の予行という事にしよう。籍は入れずお試しで結婚してみる。デメリットを感じたら、XANXUSには悪いけどお断りしよう。

「それにしても、毎回殺してるってお前が唯一殺してねえんだから、そいつはマシって事なんじゃねえの」
「んー、確かに。いつもは気持ち悪いから殺してたけど、今回は気持ち悪いとは思わなかったな」
「気持ち悪いと思うならやらなきゃいいのになあ……」
「その時は性欲が勝るのよ」

 XANXUSはゴリラだ赤ちゃんだわがままだと思ったことはあるが、気持ち悪いと思った事は全くない。殺さないのは無理だから、気まずいから、だけではなくそもそも気持ち悪いと感じなかったことも要因に挙げられるのだろう。
 ここまでスクアーロに話して勘付いた彼が人に言いふらしたら、と考える事もあるが、大体杞憂になる。なぜなら、

「それにしても誰なんだあ?同業者で、旅行に行く仲の奴はよお」

 この男、めちゃくちゃ鈍感なのである。

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