純和風の家にいると思ってください









 すいかといえば。


「塩」
「予想の斜め上をいきますね兄さん…」

 ジーワジーワとセミの声が周りの音をかき消す。
 ラント家の兄弟の目の前には、金だらいに入った大玉のスイカが氷と水に囲まれて浮いている。

「兄さんだったら、スイカ割りとか、スイカバーとかを言うと思ってました」
「俺は遊ぶことか食べることしか頭にないと思ってるのか!?」
「食べることというよりは、アイスのことですね」

 二人はスイカと全く同じ装備。金だらいに氷水を張り、両足をつっこんで涼をとっている。
 兄は半袖に短パン姿。暑そうに半袖を捲って肩を露出させている。弟は上下がジャージで上は半袖、下は長ズボンを膝までまくりあげてたらいに足をひたしていた。

「あー…あちー」
「なんでわざわざ陽当たりの良い縁側にいるんでしょうね僕ら…」
「あれだ、ふーりゅーだ」
「せめて漢字変換しましょう兄さん」

 弟は赤いヒトデ柄のうちわを扇ぎながら、手元の麦茶を一口含む。

「…ぷはぁ」
「ヒューバートだって感じたかっただろ?ふーりゅー」
「風流。夏の醍醐味を味わいたかったのは確かです」
「海に行くのはお流れになっちゃったもんな。楽しみにしてたのに」
「別に楽しみになんかしてませんよ!それの埋め合わせだとも思ってませんし…」
「思ってるんだな」

 素直じゃない態度に顔が緩む。実際、金だらいに氷水を張ったのはヒューバートだし、屋根についていなかった風鈴をつけたのもヒューバートだ。

「なぁ」
「なんですか」
「すいか、食わないか?」

 ずっと目の前で冷やされているスイカ。食欲をそそられる緑と黒の縞は、艶やかな光を放ちながら兄弟を誘惑している。

「…二人でですか?」
「俺たちに出来ないことはない!」
「大げさですね」

 ふふと珍しく微笑むヒューバートも、悪い気はしないらしい。

「よし、じゃあ早速棒を…」
「スイカ割りはやりません!包丁を持ってくるので待っててください」
「……はい」



 帰ってきたヒューバートの手には、包丁と共に塩が握られていた。







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