「ヒューバート!」
「はい」
「アスヒュしよう!」
「……は?」

 また変な病気が始まった。兄さんが変態じみた口説き文句を言ってくるのはもう慣れた。逆にないと物足りなく感じてきてきてしまうほど毒されていることは否定しない。
 だけど今日の台詞は初めて聞いた上に意味が理解できなかった。

「“あすひゅ”ってなんですか」
「リチャードとマリク教官から聞いたんだ。とにかく言っていれば幸せになれるらしい!」
「はあ…」

 兄さんからあの2人の名前が出たことにかなりの不安を感じたが、目の前のきらきらした瞳にさらなる危機感を覚えた。

「あとはその言葉にヒューバートが頷いてくれればなぁ…」

 ずいっと迫りくる顔を右手で制しながら睨み付ける。

「何なんですかそれ!ただ言えばいいんじゃないんですかっ」
「ヒューバートがいいと言ってくれれば更に幸せになれるんだって!」
「その理屈は理解できません」
「ヒューバートは、」

 一息おいて言葉が紡がれる。

「俺と、幸せになりたくないのか…?」
「―――っ!」

 切なげに寄せられた眉に悲しそうな瞳は、さながら捨てられた犬のように縋る目線を送ってくる。

「それは…」
「俺はな、ヒューバート。こんな言葉なんて本当はどうでもいいんだ。ただ、お前が幸せになりたいって言ってくれるならば、俺は全力でお前を幸せにするさ」
「兄さん…」

 兄さんの優しい言葉は僕の心に染みて、不覚にも涙腺を刺激した。

「ははっ、泣いてるのかヒューバート」
「なっ、泣いてません!誰が泣きますか!」
「…ヒューバート」

 色の変わった声に心臓が跳ねる。見上げる僕を熱を帯びている青の瞳が射ぬいた。それと同時に…

「…ん?」
「ヒューバート?」
「……兄さん」

 ヒューバート様子が変わったことに気付いていないアスベルは態度を変えることなく近づく。

「なんだ?」

 あくまでも、紳士的に接する兄さん。だが。

「…紳士的になるんだったら下半身も我慢しろぉっ!」
「ぐっ、〜〜〜っ!!!」

 下品に主張を始めていた股間に見事な蹴りを食らわせて、うずくまる茶色の癖毛にブーツを乗せる。

「――うぅ…もうちょっとだったのに……」
「最初からそういう算段だったわけですか。僕はまんまと貴方の手のひらで転がされた、と」
「どうせ転がすなら舌でヒューバートの可愛いちく、ぐあぁ!」
「今なにを言いかけましたか、ちく、ってなにを言おうとしたんですかこのド変態!」

 つま先で頭を床に押し付けるようにぐりぐりと踏んでやると「ああぁぁ!」と苦しそうな声が聞こえてきた。

「これに懲りたらもう変な事は…」
「でも…いい…」

 はあはあと息を乱して恍惚の表情を浮かべている茶色を床にめり込ませてから、その部屋を後にした。


 まぁ、懲りるなんてことは無いと思いますけどね。







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私の書く兄さんは股間を蹴られすぎw

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