あぁ、降ってきてしまった。
天気予報なんてのは見なかったが、雲行きが怪しいとは思っていた。
大した買い物をする気はなかったし、短い時間で宿に戻るつもりだった。
間一髪軒下へ駆け込むことはできたが、激しい雨足に大通りの人は散っていった。
そんなことを考えても、足下に跳ね返る雨水の量は増えるばかり。
もういっそのこと濡れて帰ろうと思い始めた時、
「隣、いいですか?」
すでに濡れきった長い髪が目に入った。
「…あんた、」
「不運にも降られてしまいましてね」
あなたもそうでしょう?
覗き込んでくる赤の瞳が扇情的に映った。
雨宿り
(旦那、その心は?)
(あなたを追って宿を出たら降りだしましてね)
(宿に戻ればよかっただろうに)
(そんなこと考えませんでしたねぇ)
(……なんだこのかわいいおっさん)
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