【ドタバタクッキング〜腹黒編〜】




「一念発起──ですわ!」


意気込むナタリアに、苦笑しか浮かばないのはなぜだろうか。
事の起こりは、昼食での会話。料理当番はジェイド。養子とは言え、軍人貴族で料理と無縁と思われがちの彼だが。何事も卒なくこなす彼だ。
「本当は、豆腐を入れたかったのですが…」
「いや、入れなくていいから!」
カレーを食べたいと言ったのは、特攻コンビ。何となく食べたくなった──と、宣う辺りは、子供の表れだろうか。
人参が苦手なルークとティアが、ほぼ懇願に近く頭を下げていたのは、印象的だった。結局は、手伝ったガイが摺り下ろしたのだが。
隠し味も効いたカレーは、綺麗に食べられる程に旨い証拠。
「大佐は、料理も得意ですの?」
「得意…ですか。いえ、そうまでは言えませんが…何分遅くまで起きている事が多いので」
「意外だよな〜」
「おや、そうですか?」
「そうですよぉ。大佐って軍人と言えど、お貴族様ですし〜」
「ですが、彼も作れますよ?ね、ガイラルディア伯爵?」
「旦那…アンタな…」
呆れる伯爵に、揶揄いを止めない死霊使い。煽る小悪魔と子爵に、止める事を諦めた謡姫は日常だ。それらの光景を見る天然姫に、疑問符が振られる。
いつもなら、止めるなり話を本人の意思以上に引っ掻き回すのだが。今は、ただ見ているばかり。
片付けの手を止め、ティアが訝しむ。
「ナタリア?どうしたの?」
「いえ。…ティア、カレーは基本料理ですの?」
「え?そうね。拘る人はスパイスも自分にあった量を探すけど、比較的楽に出来ると言えるわね」
パーティメンバーの中では、カレーが好きなジェイドと料理が得意なアニスが、拘りを持っているだろう。
考え込む親友に首を捻りながらも、片付けはグラスのみ。
「決めましたわ!」
「ナタリア?一体…」
「一念発起──ですわ!私、カレーを作ります!」
全員が言葉を無くしたのは、言うまでも無い。


講師に選んだのは、ジェイドとアニスの別名腹黒コンビ。試食役は、ルークとガイの剣士コンビ。残ったティアは、米炊き係。
カレーの作り方は、至って簡単だ。子供でも出来る料理とも言える。ただ、民衆料理ともあり、好みの幅はかなり広い。
「今回は、スパイスの配合は私がします。ナタリアは、材料を切って下さい。解らなければ、アニスに訊いて下さいね」
お解りだろうが、死霊使い。小悪魔に、全責任を押し付けている。
辟易しながらも協力するのは、天然姫が真剣に料理を習おうとする姿勢から。文句を言いつつも、きちんと教えようと思えるのだ。
「ジャガイモと人参は皮を剥いて一口くらい。タマネギは…ナタリア、どっちが好き?」
「どちらとは?」
「みじん切りにするか、スライスにするか──かい?」
「そっそ!」
「…それ、どう違うんだ?」
あまり大きな違いは無いが、結局は人の好みだ。
アニスは、スライスにする。ジェイドは、みじん切り。ガイは、形が残る様に大きめに切る。ティアとルークは、アニスと同じスライスした物を好む。
ナタリアが選んだ切り方は、スライス。
「なら、茶色の皮はいらないから捨てて、上と下を切ってから半分に切って」
「解りましたわ」
以前に少しだけだが、謡姫に習った事がある。慎重に言われた通りに切れば、後はスライスするのみ。
初めは快調に切っていたものの、眸に染みて来たのか。涙が止まらない。
「涙が止まりませんわ…」
「ナタリア。これを使うといいですよ」
死霊使いが渡したもの。
プールなどに使う水中メガネ。水の中でも、視界がくっきりと見えるスゴイやつ。定価500ガルド。
「…旦那。定価がデッキブラシと同じなんだが…」
「細かい事を気にしてはいけませんよ」
「素晴らしいですわ!目が染みませんわ!」
「「…あぁ、さいですか…」」
「………王女が良いのかしら?」
もっともなティアの意見は置いておき、料理は進む。
ジャガイモとニンジンの皮剥きは、一つずつを残し、先にアニスが剥き終えていた。これは、彼女なりの保険だ。
「タマネギが終わったら、ジャガイモとニンジンの皮剥きね」
「先にある程度はアニスが終えてますから、ナタリアは残りをお願いします」
「ぶー…大佐ぁ〜!そんな事より、スパイスは終わったんですかぁ?」
「はい。終わりました」
カレーに拘りがある彼の事。抜かりはない様だ。
真剣に包丁と向き合う天然姫は、ゆっくりと皮を剥き始める。ただ、慣れない為か。かなり手つきが危ない。
ようやく、ジャガイモの皮が剥かれた頃。剥いた実の部分が、元の大きさの三分の一しか無かったのは、言うまでも無い。
「殆んど皮…だな…」
「…そ、そうね…」
「あ、だから、先にアニスが剥いてたのか」
どうやら、子爵。今頃、小悪魔の保険に気付いた様だ。
気を取り直して、ニンジンに挑むナタリアに、アニスからある道具が渡された。
ピューラーだ。
「皮剥きが簡単に出来るの。溝に引っ掛けて、手前に引くだけで良いんだよ」
「簡単ですわね」
借りたピューラーで、皮を剥いた結果。
「………ピューラーって、簡単に皮が向けるって…アニスが言ったよな?」
「そうね…」
「どうしてまた、三分の一?」
「ははははは……」
見事に、実より皮の方が多い結果となった。
それでも、諦める事も無く料理を進めるのは、彼女の長所か。ここまで来ると、小悪魔も最後まで天然姫に付き合うと、腹をくくった。
ジャガイモとニンジンを好きな大きさに切り分け、ようやく調理に入る。
「フライパンや鍋で作りますが、今回は鍋で行きます」
調理からは、ジェイドも参加。
因みに、火を起こしたのは彼の譜術であるフレイムバーストである事を追記。枯れ木は、剣士コンビ提供。
鍋に油を敷き、タマネギを色が変わるまで炒める。炒めている横で、肉の下準備が終了。使う肉は、ビーフ。
炒める段階で、またも大量のタマネギのせいか。眸が染みる。
「そうですわ!」
スライスした時に使ったゴーグルをし、作業を再開。だが、鍋から上がる蒸気にゴーグルが曇る。
「み、見えません…」
「ナタリア、炒める時にゴーグルは無理だよ…」
「視界が0になりますよ?」
「もう!ナタリア、我慢、我慢」
「わ、解りました…」
ゴーグルを取り、染みる眸を我慢しながら炒め続けた。色が変わり始めれば、染みる事も無くなる。ここで、他の野菜を入れ炒め、ある程度の所で肉を投入。
肉の色が変わるのを待ってから、水を適量入れて煮込ませる。
「底が焦げ付かない様に、中身をかき混ぜて下さい」
煮た立せ、灰汁を取り除いた所で一旦、火から降ろす。
ここでスパイス類を入れるのだ。投入後は、かき混ぜて火に戻す。弱火で良いので、このあたりは調整。
とろみが着くまで煮込む。
「チョコレートがあれば、チョコレート入れるんだけどなぁ〜」
「隠し味ね」
「ピンポン!ティアは、何を入れるの?」
ご飯を炊いていた謡姫は、出来た飯盒を持って来る。
「私?リンゴかしら?ガイは?」
「俺?そうだな…シーフードカレーが多いから、エビを煮た煮汁とか。旦那は?」
「私ですか?珈琲ですね。あと、子供の頃は、ネフリーが辛いのを嫌がったので、ヨーグルトやミルクを入れてました」
「入れると、どう変わるんだ?」
「味がまろやかになりますよ?」
隠し味は、人それぞれ。何を入れるかは、好みに寄るもの。
とろみの着き始めたカレーをかき混ぜながら、ナタリアの視界に入ったもの。緑色の食材を手に取ると、それを鍋の中へ投入。
「彩りですわ」
バタバタと作り始めたカレーは、やっと完成に辿り着く。
ご飯を皿に盛り、そこへカレーを掛けた。グラスに水を用意し、スプーンを持てば食事の開始。
実験台は勿論、ルークとガイ。
「いただきまーす…」
出来上がったカレーは、ごく普通のカレーだ。
同時に口へ含んだ二人。何度か咀嚼した後に、それは来た。
「…かっれー!!み、水!水!みーずー!!」
「かはっ…喉が焼ける…辛いより、痛い…」
ガブガブと水を飲む二人に、ティアとアニスは疑問符を振りつつ、鍋からカレーを掬う。小皿に開けて、一つ舐めた。
「かっっっらぁぁぁあ!!」
「…み、水を…」
のたうち回る四人に、ジェイドは首を傾げた。
スパイスの配合は、間違えていない。確信があるからこそ、解らない。
小皿に残ったカレーを、一つ舐める。
「……ナタリア。何か入れましたか?」
「彩りが欲しかったので、あそこにありました緑の食材を入れましたわ」
入れたものの正体が解り、溜め息が溢れた。
緑色の食材は、ししとう。とても辛い食材。何と間違えたのかは予想出来たが、一応、訊いてみる。
「因みに、これ。貴女は何だと思います?」
「痩せたピーマンではありませんの?」
お約束過ぎる返答に、誰も何も言う事が出来なかった。


もうすこしがんばりましょう!














--------------------

HALさんから相互記念として頂きました!

もう…ね!期待を裏切らないナタリア素敵!(笑)
ナタリア同様料理の出来ない私はカレーの作り方を参考にさせていただきますww

ありがとうございました!


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -