マルクト帝国の首都グランコクマ。
譜術の発達したこの街の名物といえば、見とれるほど綺麗な宮殿だろう。
しかし最近、もう一つ名物が生まれたらしい。
皇帝の私室に三人の男が顔を突き合わせていた。マルクト帝国皇帝、その懐刀、ガルディオス家の若き当主という面々。
ごちゃごちゃと武器やら干し草やらが散乱しているこの部屋はとてもじゃないが皇帝が住む所とは思えない。
実際、ほとんどペットの住処と化しているのだが。
しかし、今そこに生き物は一匹もいない。
「うわああぁネフリー!サフィールー!かわいいジェイドォォォ!」
「やかましいですよ陛下」
「ガイラルディア!どうしてくれるんだ!」
「俺が原因じゃないでしょうっ」
若き皇帝ピオニーは机に両腕をバンバン叩き付け、愛するブウサギたちの名を連呼し喚き散らしている。皇帝としての威厳はゼロ。
「大体、ピオニー陛下が脱走しようとしなければブウサギたちだって脱走しなかったですよ。陛下の脱走口から出て行ったんですから」
「まさかほんの一瞬目を離した隙にみんないなくなるなんて…」
「飼い主に似るとはこのことですね。それか、陛下に嫌気がさしていたとか」
ジェイドの言葉がピオニーの胸に突き刺さったらしく、肘から崩れ落ちた。
「おや、相当参ってるようですね」
「あんた鬼だな…」
「いいえ〜ただの陰険眼鏡ですよ」
「ジェイド!ガイラルディア!」
ここに呼ばれた時点で、この二人は最終的に何を命じられるのかもう予想はついていた。
同時にため息をこぼし恭しく頭を下げると、グランコクマの街へ出た。
ブウサギたちは、飼い主に似て頭も切れる。
一度隠れた場所には二度と行かず、撒くことができると認識した兵には逆に体当たりなどをかますのだ。
兵も相手は皇帝のペットであるからなかなか手出しはできない。
「アスラン、ルーク!待てぇ!」
そこで期待されるのはガイとジェイドだ。
彼らは皇帝使いのエキスパートとして絶大な信頼が寄せられており、皇帝やそのブウサギたちが逃走するたび毎回活躍を強いられていた。
「あれは、ネフリーですね」
逃走劇は日に日に激しさを増し、特にブウサギの脱走はグランコクマ全域に広がるため、瞬く間に民の知るところとなった。
「あと一匹!どこだ?」
「おや…?」
だが稀にピオニー自身が城下へ下りていることがあり、それを楽しみにしている者も少なくはない。
もちろん、ガイとジェイドの人気も推して知るべしなのだが希少価値が違う。
「下りてこいー!サフィールー!」
「陛下!?」
「あの人はまったく…」
だからたとえ、その三人が周りを気にしていなくても、ましてや皇帝がブウサギを追って木に登り、家臣二人を呆れさせていようとも、国民にとってはほほえましくもまた嬉しいのだ。
「しょうがありませんね」
「え、まさか…」
「……出でよ、神の雷」
「──っやめ…!」
これもまた、グランコクマの目玉の一つ。
今日もマルクトは平和です。
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HALさんへ相互記念として書かせていただきました。
「ガイとジェイドでマルクト帝国での暮らしぶり」
とのことでしたが、遊びすぎましたwすみませんww
皇帝の脱走はもはや避けられぬことでございました
いつの間にかピオニーまでもが外に…
こんなものですが、どうぞ受け取ってくださいませ!
相互ありがとうございました^^
HALさんのみお持ち帰り可。
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