ここはセイブル・イゾレの宿屋。
 宿の主人に冷たい飲み物をもらい、ソファに座って一息ついた。
 7年間ストラタで過ごしてきたとはいえ、暑さに耐性ができているわけではない。暑いものは暑いのだ。
 ロビーには暑さに耐えかねた旅人が数人いるだけで、ゆっくりとした時間が流れていた。

 一口飲むと乾燥していた口内が潤って思わずほっと息をついた。
 そのまま用意していた読みかけの本を手に取る。

「…ヒューバート」

 目の前の存在のことは無視をして。

「………」
「ヒューバートぉ…」

 僕と同じ飲み物を飲んでいた兄さんは、飲み干したグラスの中の氷をストローで弄り始めた。
 くるくると内側に沿って回したり、ガシガシと突いてみたり。また中身を吸ったときには行儀の悪い音がロビーに響いた。
 飲み足りないのか、今度は氷を口の中に放り込んだ。
 飴玉のように転がして、冷たさを味わっている。

「なぁヒューバート」

 また声をかけられる。

「ページ、進んでるか?」
「!!」

 勢いよく顔をあげると、氷で片方の頬をふくらませながらいびつな笑みを浮かべる兄さんと目が合った。

「やっと見た」
「…意地が悪いですね」

 だって、と続けられる。

「我慢してるヒューバートが可愛くて」
「が、我慢ってなんですか」
「本当は構ってほしいくせに」
「それは兄さんのほうでしょう」
「そうだよ」

 ふっと笑いかけられ、息がつまる。
 自分はこの笑みが苦手だ。なにも言い返すことができなくなる。

 いや、違う。これは苦手ではなくて――



 すっと立つと同然のように兄さんも立ち上がる。

「どこ行くんだ?」
「自分の部屋です」
「俺も行く」
「あなたの部屋に?」
「ヒューバートの部屋に」

 また同じ笑み。
 もうこの笑みには弱いと自覚せざるを得なかった。

 僕はちょっとでもこの顔を崩したくて、

「当たり前です」

 一瞬目を見張った兄さんは、すぐにだらしのない表情を見せた。


 予想とは違う方向に崩れたが、まぁよしとする。









おまけ

「ヒューバートがデレたぁぁ!」
「いっ、いきなりなんですか!抱きつかないでください!」
「だって!ヒューバートのほうからお誘いがくるなんて…!」
「そういう意味で呼んだわけじゃありません!邪な考えがあるなら出ていってください!」
「じゃあどういう意味だ?」
「談笑…とか?」
「物足りない!」
「知りませんよ!」
「じゃあ夜に…」
「嫌です」
「じゃあ……」
「夜這いなどしたら生きて朝日を拝ませませんよ兄さん」
「(ビクッ)」(←考えてた)


終わり




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ついったで高らかに宣言してしまったアスヒュの初作品


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