距離は少しずつ



青い空、白い雲。


「わ〜広いですね」


海に来ました。


「うぅ〜、寒いよ」


只今、3月。
暦の上では春だけど、まだまだ寒い風が吹くこの季節。
寒がりの私は、着膨れた体を賢明に動かしながら砂浜を歩く。

「カイト君、寒くない?」


目がきらきらしているカイト君は、コートを着ているけど、マフラーをしているけど、あんまり暖かそうに見えない。
そう思ってしまうのはデザインが重視された服だからだと思う。


「はい!ぜんぜん寒くないですよ。まだ暖かい方じゃないですかね、今日は」


マスターは、寒いですか?


ちょっと心配そうに聞かれたから、大丈夫だと首を振る。


「寒いけどカイロいっぱい貼ってきたし、持ってきたもん」


そしたらカイト君はくすぐったそうに笑って、自分のマフラーを巻いてくれた見た目よりもふかふかしている空色マフラー。


「我慢しなくていいですよ。もう家に入りますか」


私の家は海の近くに面していて、ここからでも防波堤から屋根が見えている。家が近いって便利。


「だめ。もうちょっと散歩するって決めたの」


散歩の理由は社会見学。
もちろん、カイト君のね。
知識はあるカイト君だけど、よくよく聞いてみると、データとしてはインプットされているけど実際に見たことはないらしいので、今日はその第一歩として、この季節あまり人がこない海を選んだ。


だって、カイト君。
髪の毛青いし目立つなぁって思ったんです。


「…マスター。気持ちは嬉しいですけど、そんな震えて言われたら申し訳ないんですよ」


カタカタと体が震えている。
何か喋ると不自然にろれつが回らない。


「む〜…。どうあっても帰すつもりだな、カイト君め」


「…もっと暖かい日にまた来ましょうよ。ね」


カイト君小さい子を宥めるみたいに話してる…。
なんだか、お姉さんとしてはいただけないなぁ。


「うー…」


ちょっと、ふてくされてポケットに手を入れると、ほかほかになったカイロ。


あっ良いこと、思いついた。


「ねっカイト君」


「はい?」


「カイト君、左手かして」


「左手?…どうぞ…って。え!?」


私は自分のコートのポケットに右手と左手を突っ込んだ。


「まっマスター、どうしました!?」


「カイト君と、カイロで二倍暖かいから、もう少しいても平気になったよ」


だいぶ身長が違うせいで、カイト君の手はポケットからでてしまいそうだったけど、カイロを挟んで手をつないでいたら、すごく暖かくなった。
見上げてみると、ほっぺたが真っ赤になったカイト君。


やっぱり寒かったんじゃない。
霜焼け出来ちゃってる。


私はなんだか楽しくて、自然と笑っていた。


「今度は、夏に来ようね」


「…はい」


それから少し散歩して帰った後、風邪をひいて倒れたのはまた別のお話。

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