笑顔が可愛かったんです…
「きゃんっ」
彼女の家にお世話になって、はや1ヶ月。
今日もマスターは元気にこけてます。
「まっマスター!大丈夫ですか!?」
怪我は。
そう聞くと、マスターはほわほわ笑って大丈夫だと言った。
心配性だなぁなんてことも。
「マスターが心配させてるんですよ」
手を差しのべて起こしてやると、短い彼女の髪がぴょんと跳ねた。
くすくす笑って、洗面台に連れて行く。
「カイトさん、私自分でやれるよ」
「でも、いつも…」
「大丈夫。大丈夫」
マスターは鏡に向かって、髪を整えだした。手先は器用な方なんだけど、アイロンの温度かけ忘れたり、コードに絡まったりして、なかなか進まない。
いつも通りのコース。
また学校遅れちゃいますよ
なんて言ってしまえば、焦ってまた作業が遅くなった。
ちょっと、僕も学習しなきゃな、なんて反省して後ろからすかさずドライヤーとブラシでマスターの柔らかい髪を整えていく。
「うー……」
不満げにうなるマスターに、少し不安になった。
余計なこと、してしまったのだろうか…
彼女が頭を手にぐぐっと押し付けて言った。その顔は鏡越しに見る限り不満顔。
「ありがとう、カイトさん」
「!…はいっ」
なんだ、間違えてなかったみたいだ。
ほっと胸をなで下ろす。
「うん〜…よしっ、もう今言っちゃおう」
思案げな声をあげた彼女は僕の胸に背中を預けてきた。だから、髪を整えていた僕の手が不自然に宙に浮く。
彼女は僕をそのまま見上げて、笑いー…
「お友達になりませんか?」
「へっ!?」
どうしよう、絶対変な声だった。
裏がえったし…
驚きすぎだよ〜。
なんて、笑われたし…
「すごく、嬉しいんだ」
「嬉しい?」
「そう。こうやって意思が伝達できて、さわれて。でもね、なんだか、カイトさんは遠慮してるし、怯えてるよね?」
「ーっ」
この人。気づいてたのか…
「家族で足りないんなら、それプラス、友達になろうよ」
嫌かな〜…
そんな不安そうな顔、マスターがする事無いのに、僕の為に考えてくれたんだね。
優しい、優しい、マスター。
「家族で、十分ですよ。余っちゃいます」
「そう?」
マスターは首を傾げて、それから花が開くみたいに笑った。
「じゃあこれからはカイト君だね」
「君…?」
な、なぜ?
「カイト君は私より後にここの子になったから、私の弟なのよ」
そう言って、姿勢を戻すマスター。唖然とする僕に、髪の毛ありがとうなんて言ってから、キッチンに向かっていった。
「僕、お兄さんキャラなんだけど…」
いや、どっちにしろ嫌だな。
あれ、何で嫌?
何なんだろう、この感じ。
首を傾げて前を見てみると、鏡に映っていた。
「えっ!?」
真っ赤になった僕の顔が。
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