出逢いは、ほのぼのと



出てきました。


なにがって、男の人がです。


どこからって、パソコンからです。


「ー…っ!!あれ。僕、外にでてる!?」


大きいお兄さんが焦ってる。喋ってる。


「…すみません」


「!?……マ…スター?」


「ん〜と、カイトさんですか?」


「は…はい…カイトです。…ボーカロイド…させてもらって…ます…」


居心地悪そうに、視線がふよふよ。


「パッケージ…」


よく分からない事態が起これば、とりあえず床に転がったパッケージを手に取る。


話によれば、ソフトなはずなんだけれど…
うん。書いてない
パソコンからにょーんって出てくるなんて書いてないもん。


「お父さん。パソコンからカイトさんが出てきたよー」


「えっ!なんだって!?」


下の階から聞こえる、お父さんの声と走ってくる音。


ふと目を移すと不安そうな青い瞳がこっちを見ていたことに気づく。


どうぞ、座ってください。


笑いかけて座布団を進めると、カイトさんはおどおどして、申し訳なさそうに座った。


「美奈子!カイトが出てきたってー…!?」


お父さんが部屋に入ってくる。
ここは、私の部屋なのです。お父さんにもカイトさんと同じピンクの座布団を差し出してー…。


「私、機械苦手だから分からないけど、こういうものなのかなぁ?音楽ソフトって」


そう言った途端に、カイトさんが吹き出す。
笑い。じゃなくて、驚き。


「いやいやいや!普通に考えてください。まず、ありえませんって!」


「えっと…でも、カイトさん出てきましたし、普通なんじゃないんですか?」


「お父さん普通のお店で買ってきたから、そんなことはないと思うぞ。でも、出てきてるしなぁ……ちょっと、歌ってくれないかい?歌声を聞けば、KAITOかどうか分かるだろ?」


「どういうことですか?」


「あなたがKAITOなら、問題なし。ってことですよ〜」


「えっ!?そんなんでいいんですか」


慌てるカイトさん。
それよりも高まっていく鼓動の方が重要問題だ。
生で歌が聴ける、嬉しい!


「歌って歌ってぇ」


私がパチパチ手を鳴らすと、カイトさんは驚いたように少し目を丸くして、それから嬉しそうに微笑んで、立ち上がった。


「それじゃあー…」


すぅ


息を吸い込んで、紡がれる声は機械音の混じる、男らしい声。
間違えたりなどしない私の好きな歌声。


「カイトさんだぁ」


嬉しくって何回も手をたたいていたら、カイトさんの泣き声が聞こえた。
驚いて見上げると、カイトさんが肩を震わせている。


「ー…どうしたの?」


「…僕は…実体化してます。…歌えますけど、触れることも出来ます。…普通じゃない僕、気持ち悪くないですか…?」


私は、彼がずっとオロオロしていた理由に手応えのないながらもふと気づく。


「…えっとね?」


伝わるかな


「カイトさん…あなたはね?お父さんが私の中学校入学祝いに買ってくれたのね?」


ちゃんと、伝えなきゃ


「私、他の『KAITO』の声好きだったけど、今聞いたカイトさんの声が一番好きだったよ。


カイトさんと会えて嬉しいよ。
カイトさんでよかったよ。
気持ち悪くなんかぜんぜん無いよ」


「1人じゃないよ。私はカイトさんのマスターだよ」


立ち上がり、背伸びをしてサラサラした髪をなでると、カイトさんがぎゅっと抱きしめてきた。
クスクス笑って首を曲げて頭をお父さんに向けた。


「実体化したカイトさん。家族が一人増えたねぇ」


「母さんも喜ぶぞ」


2人で笑みを交わしていると、カイトさんがくしゃくしゃ笑顔で鼻をすすりながら言った。


「どうぞ、よろしくお願いします。僕は、カイト。ボーカロイドです」


「よろしくお願いします。私は吉野美奈子。中学生です」


これから、
とても楽しくなりそうです。

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