それは、永遠の恋



「…はぁ…」


「美奈子、僕の目見て」


静かに柔らかくそう言われ、私は彼の端正な顔を見下ろす。
見下ろすと言っても、私が覆いかぶさっている感じだから、距離はとても近い。


「さっきのはね、ある意味プロポーズなんだよ」


「………プっ!!?」


僕の部屋なんかでごめん。なんて、言ってるカ…カイトは何かを決意しているように見えた。
私の腰に回していた手が力を込めたのを認識した頃に、私は起き上がらせられていた。カイトは私を向かい合わせにしたまま膝の上に乗せた。


「これから大事な話をするから、聞いて。美奈子」


「う…うん」


何だか、嫌な予感がする。
理由は分かっていた。カイトが悲しそうな表情をしているから。その表情には、見覚えがあったから。


そう、最初にあった頃の、おびえているカイトの瞳。


「僕は、ボーカロイドだ。この先美奈子といたいと思うにはあまりにも高い壁で。
人間に近い存在になれたといっても、違うモノだし、年の取り方だって違う」


「…え?」


カイト…?今なんて…


「最初に会ったときに、年も取るって…」


「年は取るよ、でもそれは人間とは違う取り方だし。僕のほうが、長く存在する。見た目だって、多分このままなんだと思う」


「なに…言って…」


「ごめん言ってなくて…」


「………なんで、今まで言ってくれなかったの」


カイトは私の首筋に指を滑らせながら、笑みを歪ませて言った。


「最初は”マスター”に嫌われたくなかった。これ以上、異端な僕のことを知れば、どれほど優しい人でも気味悪がるだろうと思ったから……」


「そんなこと…!」


「最初だけ、本当にそんな事を思っていたのは最初だけだった。すぐに、あなたの優しさに気付いて、好きになった。とても愛しいその子は、僕の為に泣いてくれた。すごく嬉しかったよ、だけど哀しかったんだ。きっと、こんな事を話したらまた泣いてしまうと思った」


「な…泣くよ…だって、私…私…絶対にカイトを…おいて逝くんだよ……?」


「美奈子…ありがとう。大事な事後回しにして、傷つけて…ごめん」


「そんなこと、もうどうでもいい…いつかは、別れがあるのも分かってた。私が泣いてるのは、私がいなくなったあと、カイトが一人ぼっちだったら悲しいから…」


するすると気持ちが言葉になっていく。
あぁ…私は、この人がとても大切なんだ…


「…美奈子。大丈夫だ、心配しなくても。僕は、美奈子がいなくなった後も、君を思いながら生きていくから。寂しくなんかないし、悲しいことも無いよ」


「うそ…うそつき」


私達は、自然に抱き合っていた。
その体温を確認しあっているかのように、強く、強く。


「カイト、私はあなたの傍にいたい。ずっとずっと。私の命が終わるまで」


「それで、いいの?後悔しない?…この話を聞いたから気を使ってるとかだったら…」


「絶対に、後悔なんかしない。あるのは幸せだけだから。あと、見くびらないでよね。私は、カイトが思っているよりカイトに惚れてるんですから!」


カイトは、ぽかんとした顔をして、それから、見た人をとろけさせる、破顔になった。
とてもとても、心臓がうるさくなった。


「…くす。そうだね。僕の事をそんなに好いてくれてる美奈子といられるなら、僕はそれ以上になにも望まない」


私達は、お互いの体を離し、代わりに唇を重ねた。
部屋の隅にある開け放たれた窓から二人を祝福するかのような風が吹き込み、ふわりと美奈子の髪を揺らした。

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