恋人達は、語らう



湿気の多い土曜日。
午後頃に雨が降るらしく、じめじめしていて生温い。


父と母は、結婚記念日まで一週間記念。らしく、デートに出かけていて只今この吉野宅には2人しかいない。


出かけても良かったのだが雨などがたたり、今はリビングのソファーに肩を並べている。



「カイト君、それでね?えと…今度その人、家にくるから」


近い距離に加えて、冷蔵庫の機動音などしか耳に付かないほど静まりかえっているリビング。


些細な鼓動も感じ取られそうで、意識してしまったためか声も少し裏がえった。


「その人って、ルカのマスターですよね?」


「うん。さっき話したみたいに、慌てんぼさんなんだ」


作詞を承諾したあの後、曲を渡されてその場でよろしくされたのだ。
慌てて、私は静かな場所でないと集中できない。と言うと、ならこれからみぃちゃん家行こう!と強引に教室から引っ張り出されそうになった。
さすがにそれはまずい。サボリになってしまう。青くなって私は、まだ授業残ってるよーっ!と必死に訴えて止めた。あんな大きい声は久しぶりに出した気がする。


「大変でしたね」


カイト君がそっと笑った。
私も苦笑いを返す。


「それで、その流れで私の家に来ることになったの。休みの日にみっちりしたかったから、明日にしたの」


「何か僕も手伝いますね」


「ありがとう。助かる」


音域の微調整とか、メロディーの感じとか、やっぱりカイト君との方がやりやすいし、何より楽しい。


「じゃあ、お礼第一号で。お茶のおかわりいかがですか?」


「それじゃあ、ありがたく貰います」


お互いに笑みを交わしあって、私は席を立つ。


「カイト君はなにがいい?」


「じゃあ香りが良いので」


「アールグレイだね」


お湯をカップに入れて温めながら、茶葉を取り出す。
カップの中を空にして、温まったそれの中に茶葉ともう一度お湯を注ぐ。
ほんわり香ってくる紅茶を二人分もって、ソファーへと向かった。


「大丈夫ですか、僕持ちましょうか?」


「大丈夫だよー。こぼさないから」


そう言ってしまったら、絶対に、少しでも垂らせない。
監視するようなカイト君の視線にも耐え、慎重に机の上に置いた。


「ほら、大丈夫だったでしょっ」


得意げに言うと、カイト君はそうですねと笑って、それから手招きをした。
早く座ってという事なんだろうか。数歩前に進むと、カイト君は自分の膝を軽くたたいた。
それは鈍い私でも分かる。
無言の、膝に乗りなさい。攻撃。


「あ…あのねカイト君。私、そういうの苦手で…」


しどろもどろに言い訳すると、満面の笑顔が向けられた。


「どうぞ」


「う…うん」


あんな格好いい表情して…
私が断れないの知ってるんだ…意地悪だ…


しかし頭の中で詰っていても終わらないので、深呼吸をしてからカイト君の肩を支えにしてまたがった。すとんと腰を落とす。


「え?」


「へ?」


カイト君がすっとんきょんな声を上げたから、私は固まってしまった。
どどどどうしようっ!まっ間違えたの!?


「ごめんなさい!こういうのよく分かんなくってぇっ」


赤面してそのまま後ろに飛びずさろうとした私の腰が強く引かれた。その勢いも加わってカイト君が私の胸に頭を埋める。


「ひゃあっ!」


恥ずかしすぎて、瞳に涙の膜がはる。
顎を引いて見下ろすとさらさらと流れる鮮やかな空色の髪。


「か…カイト君…?」


「や…あの謝らなくても…むしろ嬉しいので…。こういう風に来るとは思ってなかったですから、少し驚いて…」


普通に座って来るんだと…
そう聞いて、やっと気づく。


「はっ」


そうか!普通にすれば良かったんだ。


「じじじじゃあ座り直す!」


「いやです」


「んっ!」


頭がさらに押しつけられて、胸が当たる。
心臓がうるさく跳ねた。
呼吸も荒くなって、意識が飛びそうになるのをこらえる。


「か…カイト君…離れ…て」


両手で押し戻そうとすると、左右の空中に固定された。


「じゃあ」


「な…に?」


「名前、よんでください」


顔を上げたカイト君は、拗ねたように唇をとがらせた。


「マスター。名前全然呼んでくれないじゃないですか」


「だって…」


「呼んで?美奈子」


とびっきり低くて甘い声。
びくんと跳ねたら、頬に手を添えられた。


「…呼ばなきゃだめ?」


どうしても慣れない。
そういうと、悲しそうな顔をするカイト…君。
私はひとしきり唸ってから、ごほんと咳払い。


「カイト…もうちょっと、離れて?」


「そうだね。この距離だと君の顔がよく見れないし」


!!!?


「かっかかかかかっ!?」


「どうしたの?美奈子」


「くくくく口調!ちがう!!」


カイト…は不敵に微笑んで、ちょんと一瞬だけのキスをした。


「二人きりの時くらい、いいよね?」


「〜…っ!」


私の家族。もとい恋人の彼は二重人格っ気があった模様です。

「美奈子。好きです」


ちゅっ


「ひゃぁぁぁぁ!」


私の苦手要素の固まりのような…


心臓は持つだろうか。
それだけが心配の種です。

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