真実は、ボーカロイド
「カイトと付き合うことになった!?」
「うわっ声大きいよ!安藤、シー」
人差し指をたてて、辺りを見渡す。良かった。気にして聞いてる人はいないみたい。
もぅっとため息を付く。
楽器のニスの臭い。独特な雰囲気はこの学校中にあるのだが、さらに強い印象を受けるのは音楽室である。
それぞれ思い思いに楽器を演奏したり、おしゃべりに花を咲かせたり、今は貴重な休み時間。
「なんで、俺に話すんだよ?」
さっきより小声にしてくれた。私は自分の手をいじりながら言う。
「だって…誰かに言いたくって。でもKAITOと付き合ったて言ったら、大抵の人は誰?、か病気?、って反応するのがおちなんだもん…」
「まぁ、確かにいえてる」
「でしょう?だから、安藤に恋バナをしてみたくなって」
「俺、男ですが」
「知ってますが?だからだよ。ねぇねぇ。みくちゃんとはどうなの?」
学校にこういう特殊な話できるの安藤しか知らないし。
「別に。いつも通り」
「そのいつも通りが知りたいの」
「別に話すようなことない。喋って、喧嘩して、また喋って、喧嘩して。のエンドレス」
「…なんでそんなに喧嘩…?」
「さぁ?」
そりが合わねぇんじゃねぇの?
すっごいぶっきらぼうに言って、男子の集まっている方へと消えた。
「拗ねてる…」
そしてひねてる。多分。
何じゃありゃ?
首を傾げていると、さっきまで安藤が座っていた席に見知らぬ男の子が座った。
知ってると思うんだけど…たぶんクラスメイト何だろうけど…覚えてない…
「みぃちゃん。そんな首してたら肩こっちゃうよ?」
「みぃちゃん?」
初めてお母さん以外に呼ばれた。
なんか、変な感じ。
「そ。気に入らなかった?」
「ううん。猫っぽくて好きだよ」
口元が自然とゆるむ。
実は猫が大好きです。アレルギーなので飼えないけど…
「そりゃよかった」
「あの、名前聞いても良い?覚えてないの」
「井上有吉。呼び捨てでいいよ」
歯を見せて笑う様は、とても元気にみえた。
太陽とか、海とか、なんだかそういうのが似合う笑顔だ。
「分かった。じゃあ…井上、何か用?」
「そっち?おもろいね。みぃちゃんって」
「?」
安藤も同じこと言ってたような気が…
「で。用なんだけどね?俺作曲は得意なんだけど、作詞は本当に苦手で」
突然…だなぁ…
流れが。
「とうとう相方に怒られたんだわ。『いい加減にしろ』って。だからさぁ、作詞してくれない?みぃちゃんってすっごい俺のイメージにぴったりなんだよ」
「私が?私の詞が?」
「作詞力が!」
日本語弱いのかな…?
「うん、いいよ。そう言ってくれて私も嬉しい」
「マジで!?やったぁ!」
「それで、その相方さんはこの学校の人?」
「いんや。俺ん家にいるよ。多分今頃…マグロの解体ショー行ってんじゃね?」
「行ってる?」
フリーターの人?
「巡音ルカって知らない?」
「それって…普通にパソコンの中?…それとも…」
外れて欲しいな…
フリーターなんて思っちゃ〜…
「えっなに?みーちゃんとこも実体化してんの?」
私は、安藤へと視線を投げかける。
親指上にした手を突き出された。
ごめんなさい。言うの忘れてました。
の開き直ったポーズらしい。
わぁ。
世界はとても狭い。
そしてごめんなさい。
フリーターって思ってしまって
ごめんなさい…
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