嫉妬って結構辛いです
ワイワイ、きゃいきゃい。
ボカロ達を合わせる会とはお茶会のようで、今はほっと一息。ティータイム。
チラッと視線を向けると、すっかりとけ込んだ様子のマスターの笑顔がうかがえた。
良かったと、ふつうに安堵する。
楽しめてるみたいで、僕も嬉しい。
なんだか自然に男女で分かれてしまって、圧倒的に女性陣が多く陣地を占めている。
男性側はソファーで大人しくテレビを見ているのだが…
視線がどうしてもマスターにいってしまう。
さっき硬直されたから、少しは自重してるつもりなんだけど…ぜんぜん制御できない。気づけば見ているのはマスターの笑顔。
「あら、カイト君たら。そんなに熱烈に見つめちゃったら穴開いちゃうわよ」
突然話しかけられて、一瞬本気でどこにいるのか分からなかった。すぐに、はっとして相手を確認…するまでもないけど、雅也さんだ。
「あははは…まぁちょっと…」
どう返したらいいのか迷った末、はぐらかすような感じになった。でも、追求されても困るし良いか。
そう考えていたら、肩をぽんと叩かれた。
…励まされてる?
「好きな娘に、思いっきり押しのけられたらヘコみもするわよね」
「なんでわかっー…の前になんで知ってるんですか?」
あの時。この人お酒買いに行ってていなかったはずじゃあ。
「めいこから聞いたのよ」
「そうですか…」
結構…いや、すごくルックスも良いし、顔も整ってるのに口調とかみ合わないから変な感じがするな。もしかして、趣味もそっちなのかー…
「あ。言っとくけど、私女の子しか好きじゃないからね?」
「えっ!口に出してました!?」
「大きく顔に書いてあったわよ」
すいません…
そう言うと、雅也さんはおかしそうに笑って、それから真剣な顔になった。逃がしてはくれないらしい。
「ほら。私の話はまだ終わってないわよ」
「…返答は、はい。です。正直言ってトラウマになりそうです」
「次に抱きしめるときの?」
「…聞きますか」
「ごめんごめん。なんかカイト君と喋ってたらついからかいたくなって。」
赤くなったような頬に手の甲を押しつけて視線をさまよわせる。
レンは美羽さんのことを、意外にもとても優しげな瞳で見ていた。いや、見とれているといったほうが正しいか。
安藤さんは、時折退屈そうにあくびしながらテレビに耳を傾けている。
リンは反対側のソファーの上でまだ寝ている。
仕事をしている人たちが混ざっているので、解散時間は早い。
あと一時間でみんな帰る時間なのに、いいんだろうか起こさなくて…
マスター達は、めーちゃんのお酒攻撃を受けてヘロヘロになりかけていた。マスターはー…あぁ、やっぱり弱いんですね…顔真っ赤。
「まぁ、気長に待ってあげなさい。見るからに純情そうじゃない」
「そのつもりです」
「の割には、晃にヤキモチ焼いてたみたいだけど?」
「…ヤキモチ?」
「そうよ。他の人が近づくでしょ。そしたらこう…なんて言うのかしら。ドロドロした気持ちが溢れてくるのよ。そうじゃなかった?」
「そう…でした」
この感情は、ヤキモチというのか。
「こういうのってしょっちゅうあるんですか?」
「あるわねー。本気な娘ほどそれはもっと汚くなって、ドロドロして、どうしようもなくなるの」
「僕…我慢できるか自信なくなりました…」
「だから言ったでしょう。待ってあげなさいって」
がっくり肩を落とした僕を、笑って励ましてから、雅也さんは立ち上がり、向かい側のソファーへ移動した。
「リンちゃん。ほら、起きなさいな。もうすぐみんな帰っちゃうわよ」
「んー…。ぇ…今何時?」
「一時。あと残り一時間」
「えーっ!!マスターひどいっ起こしてよー!」
「あ。リぃンおはようーっ」
「マスターのバカ!」
「だってだって。私が起こしてもリン起きらかったりゃない」
「まぁまぁ。リン落ち着きなさい」
「雅也ちゃんまでー…」
「そうらよ。リンちゃんラッキーらよォ。わひゃしお酒いっはい飲まされらろよー」
ミクがろれつの回らない口調でリンを説得しようと参戦してきた。
お姉ちゃん魂なのか。必死に喋っているし早口だから何を言っているのか分からない。
「ミク。うるさい」
「まっますひゃあのばらーっ」
「めいこ。飲ませすぎだろ」
「だって、ミクって意外と飲めるんだもの」
めーちゃんが悪げもなしにからりと笑うと、ふらりと立ち上がる美羽さん。目線がレンで定まる。
「いいらー。わふゃしも、りぇンとけんかするぞー」
「わーマスター。強いー抱きしめられたら完璧負けちゃうかもー」
「うらー」
美羽さんは力一杯喧嘩をしている。らしいけど、はたからみたら甘えて抱きついてるようにしか見えない。大根役者を演じたレンはそれを狙った事がまるわかりである。
「あっレンずるいっ私も私も!」
「リンちゃんにはちゅーしちゃうー」
「やったーほっぺちゅう」
「…マスター家帰ったら、覚悟しててよ」
いきなりカオスになった面々。
呆然としていると、膝にかすかな重み。下を見るとー…
「カイト君…」
「ま…っ!」
大きい声を上げて、マスターが正気を取り戻すのは惜しい気がしたから、出来るだけ優しく話した。膝立ちで顔を上げるマスターは、瞳は潤んでいて、唇は軽く開かれていて、とてつもなく扇状的だ。
「どうしました?」
髪に触れると、気持ちよさそうに目を細めてすり寄せてくる。
「カイト君と…ひっつきたくて」
大きく胸がはねた。
警鐘が鳴り出す。
用心せよ、理性。
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