気持ちは、モザイク付き



家に入ろうって誘いに行って、廊下を抜けて、リビングに続く扉を抜けようとしたら…


今、私。
落ち着いて、とりあえず落ち着いて。


自分に言い聞かせて、深呼吸。カイト君の香りがして、思考が熱く溶けた。


どうしよう!どうするものなの?こういう時って。
手を回せばいいの?でもでも…恥ずかしいし…
っていうか離してもらおう。
うん。そうだそうだ。いや?ちょっと待って。体が動かない!どうしよう!手…あっ。手は動かせる。よし。離してって動きで伝えよう。えっ?嘘!手がカイト君の服つかんで固まっちゃった…


なにこれー!?


軽くパニックになっていた私の肩に手が触れてゆっくり引き離してくれた。


「マスター。何も見てませんか?」


「う…ん…」


何が?
そんな疑問すら浮かんでこない。
原因は頭を浸食していく熱。
その原因と考えられるのは視界を占領するほど近くにあるカイト君の顔。


どうしよう…
目がそらせない…


「マスター?顔赤い…やっぱり見たんですか!?」


「なに…が…?」


「なにがって…さっきのレンの…」


れん…?レン?レン君!?


「きゃぁぁぁぁっ」


どんっと目の前の広い胸を押しのけて、部屋の隅っこに逃げた。
他の人がいること…忘れてた…!


「あぅぅ」


なんだか、間の抜けたような声が聞こえた。近くで。
目線をあげると私の目の前には丸くなって、こっちを見てくる、瞳が潤んだ女の人がいた。
どうやら、この人が先客だったらしい。
なんだか服が乱れてあるような気がするのは気のせいか。


「「あの…」」


「「はじめまー…っ!いたっ」」


思いっきり、頭をぶつけてしまった。目の前にいる女の人も額を押さえているから、きっと頭と頭がぶつかってしまったんだと思う。


「「ごめんなさー…いたっ」」

謝ろうと思って下げた頭が、またしても空中で衝突した。
さっきより痛くて、涙目になった。


「あんた達、落ち着きなさい」

めいこさんに窘められて、今度こそ深呼吸を成功させる。


「えっと…私。カイト君のマスターの吉野美奈子です。高一です」


「私は、リンとレンのマスターで。二宮美羽です。歌手です」


ふわふわ笑った彼女の顔を、凝視。


っ!!?
思わず飛びずさる。
見たことが大いにある。
CD全部あるし、ポスターだって何枚もある。
ファン。私は立派なこの人のファンだ。ファンクラブ入っちゃうぐらいの。


だけどこの人の事はだいたいの人が知っているし、中学生の頃からプロシンガーとして活躍していたから、耳に覚えのある曲も数多く作詞作曲している、相当な有名人。
涼やかで、澄み渡るような歌が特にすてきなあこがれの人。


なのに、なぜ気付かなかったのか。
それは初対面の時の心理的状態ももちろんながら、明らかにテレビで見るに違うところが…
滑らかな流し目と、凛とした眉は、どこに?


「もっと、私生活も格好いい人なんだと思ってました」


「うっ…ごめんね。想像と違って…」


あっ私、言い方間違えたっ


「素直な意見なんです。えっと…幻滅なんてもってのほか、それどころかもっと好きになりました。可愛いところも見れて嬉しいです」


「まぁ…」


きゅっと手をつないでくれた。
きゃーっ!
指細いし長い。色白い。綺麗ーっ


「これから宜しくね。美奈子ちゃん」


「はい!二宮さん」


「美羽でいいわよ」


「…美羽さん」


2人の間に穏やかな雰囲気が流れ出したとき、玄関から凄まじいドアの閉まる音が聞こえた。めいこさんが駆け足で向かった。嬉しそうな顔からしても、めいこさんのマスターさんが帰ってきたのだろう。



「酒買ってきたわよーん」


「マスター。何買ってきたの?」


「んふふ。今日は無礼講よー!甘いのから辛いのまで勢ぞろいよーっ」


「グッジョブ!マスター」


ひょいっと顔を出した人を見て、息をのむ。


「アキラさん?」


「あら、私のこと知ってるの。緊張しなくて良いわよ。可愛い子ねぇ」


「ははは、初めまして!吉野美奈子ででです」


うわぁ!芸能人さんが2人も!


「あなた、私のファンなの?」


「ははははい!すっごくファンです!」


三年前に友達に着いてきて欲しいと言われた、ライブ。
そこで歌っていたのはアキラさんだった。
低いハスキーな声から、どこから出てるんだろうと疑うようなソプラノ。乱れない音。
魅了された瞬間。


とっても変わった人で、女言葉で喋っているけれどれっきとした成人男子。
今はタンクトップだけだから、肩の広さとか筋肉の程良く付いた感じなどがよく分かった。


「なんか、緊張しちゃってるけど、いい子みたいじゃない。良かったわね美羽。友達が出来て。」


「うん。雅也君も友達だよ〜」

本名未発表だから知らなかったけど、雅也さんっていうんだ…


考え事をしている私に気づいて、雅也さんは突然安藤の肩をつかみ私の前にきた。


「私の本名は、雅也安藤。めいこのマスター。それと、こいつと年の離れた兄弟よ」


「兄貴…俺なんで肩組まれてんの」


「もぅね。ちっさい時は可愛かったのよ〜だから芸名もアキラにしちゃった」


てへっ


「兄貴…やめてくれ」


テレビで見るよりはっちゃけてる人なんだなぁ


「雅也さんも、素敵ですね〜」


「兄弟だったことには驚かないのか」


「うーん…特には」


やっぱ抜けてる。
そう言われて、軽く安藤の足を叩いた。


「いい加減おきろよ。2人とも」


「分かってるもん」


安藤に説教されるのが嫌でさっさと立ち上がった。


カイト君と視線があって、硬直。


どうしよう…
今日1日、すごく長くなりそう…

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