もうこの時点で疲れました
初夏。
微妙に暑いこの時期にあの服は暑いだろうと、マスターが買ってきてくれた半袖の服を着て、僕たちは道路沿いの道を歩く。
横を視線をずらすと、ずっとふいているマスターのつむじが見えた。
今日の彼女の装いは、女の子らしい薄ピンクのワンピースに、レースのベスト。パンプス。
『可愛いですね』
『…ありがとう』
出発前。マスターは小さくそう言った。
抱きしめたいな。なんて思ったのは内緒だ。
今僕たちは、ミクのマスターの家に向かっている。
昨日、ギリギリになってマスターが誘ってくれたのだが。
『あっ明日っ!ミクちゃんのマスターのお家に遊びに行こうっよ、予定ある?』
なんでそんな挙動不審なのか、少しショックを受けたことは置いておいて。もちろん用事など無かったから、二つ返事で答えたのだ。
ミク以外にも、今日は双子や、めーちゃんが来ているらしい。
「楽しみですね。マスター」
「うん。私も今からわくわく」
顔を合わせなかったり、近付かなかったらマスターはいつも通りに振る舞ってくれる。
後ろで花のように笑っているであろうマスターの笑顔をみれないのは非常に残念だ。
「あっ着いたよ。カイト君」
「じゃあ、インターホン押しますね」
指がボタンに触れようかという時に、高いソプラノの音が聞こえた。いや、あれは声だ。
「お兄ちゃんっ」
後ろからマスターの黄色い声が聞こえた。
「あっ」
「マスター?」
「みくだぁ」
たたたと走っていくマスター。そのままぎゅっとミクに抱きついて微笑むマスター。花が辺りに飛んでいる。
くそ…羨ましい。
最近はそんな事してくれないのに…ミクだけずるい!
そんな事を考えていると、肩に手が置かれる。この気配には心当たりがある。
「あんた、振られたわね」
ふふふ。
さもこの状況を楽しんでいるようなわらい声は…
「めーちゃん…僕いつから振られたことになってるの」
「見たら分かるでしょうよ。たった今」
びしっと指を刺される。
痛い痛い。わき腹は痛い。
そう言って離れると、めーちゃんはつまらなそうな顔をした。
僕で遊ばないで欲しい…
ため息をついたらば、またいじりの標的にされるので飲み込む。
「…あれ…リンやレンは?今日来てるんだよね」
めーちゃんが苦笑に近い笑顔をした。
「今頃、私達がいなくなったのを良いことに、マスターの事苛めてるんじゃないかしら」
「…レン様。発動してるんだね」
「まぁね…」
「じゃあリンは」
「みかん食べ過ぎて、お腹いっぱいになったから寝てるわ」
こっちは相変わらずらしい。
「おいおい。家の外で騒ぐな。中入れ中」
乱入してきた声は見知らぬ人。
「安藤!みくちゃん可愛い」
「…可愛くないもん」
「可愛いーっ」
「…不思議な組み合わせだなぁ。お前ら」
「そんなこと無いもんっ、べー」
「ガキ」
な…
なんなんだ。この仲良さげな雰囲気、態度、言葉。
なんなんだ。この人…
「あ…あの」
声をかけてみると、離れているおかげで真っ正面からマスターの笑顔がみれた。
そこまでは良かったんだけど。
「カイト君。この人がみくちゃんのマスターの安藤」
「ん?あぁ、あんたがKAITOか」
「そう。うちのカイト君ですよ」
背伸びして安藤さんの耳元でごにょごにょとするマスター。
…ちょっと、近くないですか?
「お前なぁ…」
安藤さんは疲れたようにため息をついて、マスターの額にコツンとげんこつを落とした。
何事かをささやかれて、真っ赤になる彼女。
イライラする。
近づくな。触るな。見つめるな。
普段持たない感情が中でせめぎ合っている。
なんなんだ。このドロドロした感じ。
ムシャクシャした気持ちのまま成り行きを見守っていると横から肩をたたかれた。
「あんた、我慢してたら取られちゃうわよ」
「めーちゃん、僕の考えてること分かったの?」
「鏡見てみなさい。今あの子に近づいたら泣いて逃げられるわよ」
額をぐりぐりされて、ようやく眉間の力を抜いた。
「まぁ、頑張んなさい」
「うん。忠告ありがとう」
笑いかけると、めーちゃんは興味を失ったようにマスターと安藤さんの元に行った。
なんか…めーちゃん。データで知っているより自由になってる気がする…
「カイト君。早く入ろう!リンちゃんとレン君が待ってるよ」
皆が家に入っていく中、僕の方に走ってくるマスター。一メートルぐらい離れた所で止まったけど…
「はい。行きましょうか」
笑いかけて歩き出すとマスターもテトテト、僕の横を歩いた。
それから、家に入ると…
「まっマスター!みちゃ駄目です!!」
けして、見せるものかと顔を胸に押しつけて叫んだ。
硬直しているマスターの耳もふさいで、また叫ぶ。
「レン!早くその人から降りなさーい!!」
今日1日、とても長くなりそうです。
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[mokuji]
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