大分、こたえます…
「いやあ、カイト君。あっち行って!」
何なんでしょうか…
何のイジメなんでしょうか…
「きゃっ!かかかかカイト君!」
近付いただけで、逃げ去っていくマスター。
顔を隠して一目散に去っていくマスター。
何の罰ですか…これ…
「カイト君ったら。みぃちゃんになにかしたの〜?」
「い…いえ。特に何も…」
「こらカイト君。君って奴は」
「パパさん、誤解ですよっ」
さっきまで朝食をとっていた吉野家の一人娘。マスターが僕を見た瞬間にまだ余り手をつけていないご飯を振りきり、学校に登校していったことが始まり。今に至る。
「ママさん。僕、くじけそうです…」
「あらあら、泣かないの。いい子いい子」
「ほらほら、わたしの卵焼きをあげよう。美沙さんの愛がたっぷり詰まった漬け物も分けてやろう」
「きゃあ。隆弘さん、男らしいわ」
このご夫婦の倦怠期はきっと一生来ないんだろうな。
と、どんどん盛られていくご飯にストップをかけつつ、微笑ましい気持ちになる。
「いつから、あんな風になってしまったんだろうなぁ?今までカイト君にベッタリだったじゃないか」
「はぁ…なんとなく、思い当たる点がある事にはあるんですがー…」
一週間ぐらい前だったか。
夜にドアがノックされた。開けてみるとお風呂からあがったばかりであろう、濡れた髪をバスタオルで押さえたマスターが立っていた。
『どうしたんですか?』
『…ちょっといい?』
『?はい、どうぞ』
部屋に招き入れて、ベッドに座らせる。後ろから髪を拭いてやったら、大人しくされるがままになっていた。
いつもなら、自分でやろうとするのに、珍しいな。
と、その時はそれだけしか思っていなかった。
「それで?」
「…いえ。まぁその後…」
何も喋ろうとしない彼女が、少し心配になってこちらからいろいろ話しかけたのだが。
『今日は、声の調子が良かったんですよ』
『へぇ…』
『いい天気ですね』
『…うん』
あまり、いい反応が返ってこない。
どうしたものかと試行錯誤し、1つ浮かんだ話のネタを話す。
『…今日は、学校でどんなことがありましたか?』
報告好きな彼女の事だから、がっこうのことならきっと色々話も弾むだろうと思っていたのだが、さっきまではかろうじて返ってきていた返事が今度はなかった。
『マスター?』
『…』
後ろにいるから、顔がよく見えないな…
ひょいっと脇に手を入れて、こっちを向かす。
身長154センチの彼女は、軽々と回転させることに成功したのだがー…
『マスター。顔真っ赤じゃないですか!風邪ですか!?』
太股の上にマスターを置いて、腕でもたれられるようにした。
なんとなく、震えているようだ。
どうしよう…苦しいのかな…
『マスター?だいじょ』
『!!っだいじゅうぶ、だかりゃ!』
盛大にかんで、マスターのおでこに伸びていた手から顔を背ける。
『で…でも…』
『だ大丈夫ったら大丈夫なのっ』
おやすみ!
するっと膝の上から飛び降りたマスターは、それだけ言うと走って部屋から出て行ってしまったー…
「とまあ。こんな事がありまして…」
結局何しにきたのか、分からなかったんですよね…
「ー…それで、美奈子はそれから?」
「はい…それ以来。だんだん僕のこと避けるようになって…」
パパさんが唸る。
意味が分からないようだ。
やっぱり、分からないですよね…
くすくす
え…笑ってる…?
ママさん…笑ってる…?
「ママさん?何で笑ってるんですかぁ。僕、本気で…」
「だぁいじょうぶよ。心配しなくても、みぃちゃんは」
なおも笑うママさん。
「どういうことだい?奥さん」
「あなたったら、カイト君と同じで、鈍感なんだから」
人差し指で、つんっとパパさんのおでこをつつくママさん。
パパさんはそれで興味を失ったらしいく、ママさんに意識がすべて集中している。
「どういうことですか?ママさん」
ママさんは、マスター似の唇を悪戯げにとがらせた。
「これは、私の口からは言えないの」
とどのつまり。
僕の受難はまだまだ続くらしい…
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