「あたしも団長みたいに強くなりたいなぁ…」
人間のあたしは当然ながら戦闘能力なんか全然で、お世話係として団長のそばに置いてもらっている。
「あたしも戦ってみたーい」
だけどね、あたしの夢は団長と戦場に立つこと。
だからあたしは流れ星に祈ったんだ。夜兎族に負けないくらいの力がつきますよーに。
そしたら、
「おんどりゃぁああ!!」
ズドーン!!!
ものっそい勢いで投げ飛ばされた阿伏兎さんは壁にめり込んだ。誰に投げ飛ばされたかといえば、あたしにだ。
「わぁ、名前いつの間にそんな怪力になったの?」
団長がこの光景を見て拍手して言う。だけどあたしはそれどころじゃなくて、
「てめぇ阿伏兎さん!!あたしのケーキどこにやりやがったんですかぁああ!!」
楽しみにしていたチョコレートケーキの紛失事件で頭がいっぱいだった。
阿伏兎さんは血を吐きながら、
「…知らねーよ殺す気かすっとこどっこい!!」
傘を構えて言った。
すごいことだ。夜兎族の阿伏兎さんが額に汗を浮かべて、人間のあたし相手に戦闘体制をとっている。
だけどあたしは負ける気がしなかった。チョコレートケーキが勝手に無くなるわけないもの!!!一緒に買い物に行った阿伏兎さんが一番怪しいんだからね!!!あたしが勝つ気満々で飛び掛かろうとしたとき、
「あ、それ犯人俺かも」
団長がニコニコ言った。
なぬ!?
「…団長」
「ゴメンネ、すごく美味しかったよ」
プチンッ
頭の中で何かが切れる音がした。
「あたしのチョコレートケーキ返して下さぁああい!!」
標的が団長に変わった。
食い物の恨みは恐ろしいんだぞ!!
「とうっ!!」
体がなめらかに回し蹴りを繰り出す。身軽だ。正直なんだか楽しいぞコレ。ケーキの怒りと戦闘の楽しさが化学反応を起こしてあたしのボルテージがグングン上がる。
「あはは」
団長は笑顔であたしの攻撃を避けていった。
「そんなに怒らないでよ」
「うっさいケーキ返して下さい!!」
「ねぇ、何でそんなに強くなったの?別に筋肉ついたようにも見えないのに不思議だなー」
あたしがパンチを繰り出したとき、団長はひらりと身をかわしてついでにあたしの足を引っ掛けた。
「きゃっ!」
足元をすくわれたあたしの体は斜めに傾いて、団長はそれを逃さず、あたしの両腕を捕らえて床に押し倒す。
「はい、名前の負け」
「うわぁああん!!ケーキィイ!!」
あれ高かったんだそマジで!!悔しい…悔しいよマミー!!
「名前、答えなよ」
「ケーキ…」
「なんで急に強くなったの?」
「…」
「言わないと殺しちゃうぞ」
「…流れ星にお願いしました」
団長がアホ毛をピコピコさせながらニコニコ言う。
「…もう一回チャンスあげるよ、どうして急に強くなったの?」
「流れ星にお願いしました!」
「殺しちゃお」
なんで!!?
本当のことなのに!!!
「ほ、本当ですってば!!」
「そんなんで強くなれたら誰も苦労しないよ」
「…確かに」
ヤバいヤバいヤバい!!なに納得しちゃってんのあたし!!!
これじゃケーキは取られるし命も取られそうだし…あたしは泣きそうになる。
「…」
「名前」
「なんですか…」
「その話が本当なら、もう一回流れ星にお願いしなよ」
「あっ、そっか!」
ケーキ下さいってお願いすればいいんじゃないか!!
そっかそっか団長頭良いですね!!
「分かりました!!」
あたしは団長に押し倒されたまま流れ星に祈ってみた。
「流れ星さま流れ星さま、どうぞ吐き気を感じるくらい大量のチョコレートケーキを…」
バコッ!!
そして何故か団長に殴られた。
「いった!!何すんですか団長!!」
「馬鹿だね名前は」
「なんですと!?」
言われたとおりにしたのに馬鹿とは何事!?
「力をもとに戻して下さいって祈るんだよ」
「…なんでですか?」
団長はあたしを押し倒したまま覗き込むようにして言う。
「名前に強さは必要ないからだよ」
「…」
意外なお言葉、まあビックリだわ。団長からこんな言葉が飛び出すなんて…。弱いヤツには興味無いんじゃないのか?
「団長」
「なに?」
「なんであたしに強さは必要ないんですか?」
「…戦う必要がないからだよ」
「なんで?」
「怪我したら困るだろ?」
うわ!うわ!!なにこのセリフ!?全くもって団長らしくないぞ!!!
「怪我くらい大丈夫ですよ」
「ダメだよ」
「…」
団長が押えつけている手に力を入れた。ちょっと痛い。
「名前は俺に守られてればいいんだよ」
「…」
「で、子ども産んでくれればいーの」
「…は?」
「ってことで今いい感じの体勢だからこのまま一発ヤっちゃおっか」
「はあ!!?」
遠くの方で、俺いるんだけど、という阿伏兎さんの声。
「阿伏兎さーん!!ヘルプミー!!」
「知らねーよ、すっとこどっこい」
さっきの仕返しかコノヤロー!!団長がケタケタ笑う。
「阿伏兎、邪魔したら殺しちゃうぞ」
「へいへい分かってますよ」
そう言って去っていく。
あたしは苦しまぎれに叫んだ。
「流れ星さま、流れ星さまぁ!!どうかあたしを埋め尽すくらいのチョコレートケーキを!!!あたしを埋めちゃって下さい!!!!」
もう団長に押し倒されているってのが恥ずかしくてしょうがない。
だけどチョコレートケーキは降ってこなくて、
「往生際が悪いね」
「ひゃうっ!!」
代わりに団長の舌が首筋をなぞった。背中がゾクっとする。
団長がニヤリと笑う。
「名前は強くなくていいんだよ…」
「でもっ!団長と戦場に立つのがあたしの夢です!!」
「戦場になんか連れて行かない…」
「…なんで…」
「そんなこと、自分で察しなよ」
流れ星の気まぐれ
ずっと俺の手中にいてよ
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綾様へ
企画参加ありがとうございました!!
ギャグ甘とのリクエストでしたが、あまり甘を感じませんよねー(^^;)すみません;
あと流れ星のこととかね…広い観心でスルーしてやって下さい(笑)
リクエストありがとうございました♪
20090225白椿