いやちょっとマジやめて。おじさん、泣いちゃうよ。雛どこ行った?。どこ見てもいないよ。


「…笑えねぇ」


広い庭には花が種類と色で区別されて沢山植わっている。雛はこの庭を見て、目を輝かせて散歩してくると出て行った。雛に限って団長のような心配はいらないだろうと思って、特に心配もなく仕事の交渉を終えたのだが…。いや、雛に限っては、やっぱり自分勝手な行動をとるとは思えない。誰もいない庭を眺めて冷や汗を一つ。


拉致…?


いやいやいやいやいやいやないよそれは!だって城の庭だよ?警備万全でしょ?もし拉致されたなんて俺どうしたらいいの?団長に殺されるよ!!マジ勘弁!!

俺は雛を探すべく街に繰り出した。彼女が無事であることを祈って。





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「おおー…」


庭も凄かったけど城もすごかった。すべてのスケールがでかい。こんな高い天井初めてだし、あんな夢みたいにでかいシャンデリア本当にあったんだ!なんて思わずはしゃいでしまう。神威王子はあたしの手を引いてどんどん突進んで行った。お城の造りを隅々までじっくり観察したいと思ったけれど、手を引かれてはそれもかなわない。


「神威王子、どこに向かってるんですか?」

「王子なんてやめてよ、雛には神威って呼んでほしいな」


誰かにも言われたことあるなぁ。あたしは言い直す。


「か、神威さん、どこに向かってるんですか?」

「着いたよ」

「え」


神威さんはある扉の前で立ち止まった。木製でごちゃごちゃと彫刻が施された扉。ノブも特注品だろうか?一つ一つが綺麗にデザインされている。そんな素晴らしくゴテゴテした扉を、神威さんは戸惑いなくバンッと勢いよく開け叫んだ。


「じい!!この子を僕の妻にする!!」

「…」


一瞬何を言われたのか分からなくて、


「この子…?」


この子って誰のことだろうと辺りを見回した。





-----*





あれから数時間。雛はいっこうに見つからない。もしかしたら船に戻っているかもしれないと思い、すがる思いで春雨に戻るとニコニコな団長に迎えられて、途端に冷や汗が噴出した。


「おかえり阿伏兎」

「お、おう」

「雛は?」

「あー、そ、それがなぁ」

「ん?」

「は。はぐ…」

「聞こえないよ」

「はぐれて、見失った」

「…へぇ」


ニコニコと輝く素敵な笑顔。思わず少し後退りするが、団長は素早く間合いをつめて俺の首に指を食い込ませた。


「ぐはっ!!」

「いいよねー阿伏兎は」

「はっ、はぁ?」


首を掴む力が半端ない。


「雛と二人でデートできてさ」

「だ、団長っ!何をっ…」

「俺だって行きたかったのに」

「…っ」

「あげく雛を隠すなんて、図々しいにもほどがあるよ」


素晴らしく面倒な誤解をしていらっしゃる。


「雛は俺のもんだよ。早く返して」

「…」

「自分の歳を考えなよ、ロリコンが」


ひ、ひでー!!いやそれよりも!そろそろ酸欠ヤバい!!しゃ、喋れない!!!


「がっ、だ!!だん、ちょ」

「んー?」

「ご、かい、だはぁ!!!」


マジで死ぬ…。





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あたしって鈍感だと頭を抱えた。だけど会ってまだ一時間くらいしか経ってない人と結婚なんて普通思わないよね!!非常識!!!いや、もしかしたらこの惑星では普通のことなのかなぁ…。とにかく困ったぞ!!。

ドレスを作りますと言われて、あれよあれよとメジャーを巻かれて、聞こえてきたウェディングという単語。


ん?ウェディングだと…?


そこで気付いたあたし。


つ、つつ妻にするってあたしのことか!!?


気付いてからはいてもたってもいられなかったけど、優しいメイドさんたちを足蹴にすることも出来ず、とりあえず測りをすべてを終えてから神威さんを探して全力で走った。さっきの木製の扉の前まで来ると、聞こえてくるくぐもった声。


「いくらなんでもそこらの町娘では…」

「雛は町娘じゃないよ、春雨の団員だ」

「春雨の…」


あたしは勢いよく扉を開けると叫んだ。


「あの!!あたし神威さんと結婚なんて出来ません!!」


神威さんと、執事のおじさんが目を見開いてこちらを見た。おじさんがニコリと微笑んで言う。


「本宮雛様ですね?」

「え…は、はい」

「春雨の方だとか…?」

「はい、そうです」

「そうですか、我々は雛様を歓迎致します」

「…」


ええええええええええ!!?
執事のおじさんはそのままあたしの肩に手を添えると、


「こちらへどうぞ」


そう行って誘導を始めた。さっきのあたしの叫びは丸無視。話しを聞いてよ!!あわあわするあたしと、ニコニコな執事のおじさん。その後ろを神威さんも付いてくる。


「ようやく王子の結婚相手が見つかって、私安心しております」

「いや、ですから」

「式は明後日には間に合わせますので、それまでごゆるりとおくつろぎ下さい」

「あたしは神威さんとは」

「この部屋です」


話を聞けや!!!押し込まれるようにして部屋に入ると、神威さんも入ってきて、


「それでは私も準備の手伝いに」


すぐに扉が閉まる音がした。あのおっさんダメだ!!全然聞いてねぇ!!あたしは神威さんに向かって言う。


「神威さん!あたし貴方とは結婚できません!!」

「え?何で?」


「な、何でって、こんな会って間もない人とどうして結婚出来るんですか!?おかしいです!!」

「そう?」

「そうですよ!だいたい神威さんは一国の王子ですよ!?結婚相手はそれこそ慎重に選ぶべきです!!」

「うん。でも僕は雛と結婚したいんだ」

「…どうして?」


そう訊くと、神威さんはニコリとして話し出した。


「初めてだったんだ」

「え」

「僕とこんなに自然体で接してくれた女の子は」

「…」

「今までお見合いいっぱいしてきたけど、こんなふうに好意を持ったのは君が初めて。ね?運命だと思わない?」

「え、いや…で、でも」

「何も心配いらないよ。式もドレスも僕らが準備する。あと部屋や食事、衣類、生活に必要なものはこっちが全部、上質なもの用意させるから。」


あたしはブンブンと首を振った。あたしが断るのはそんな心配からじゃない。


「あたしには、好きな人がいるんです…」




世の中都合良いことばかりじゃない

あたし神威団長が大好きなの










20090515白椿