「ねぇねぇいいじゃない団長さん」
「…」
「一晩だけ、ね?」
「…」
「ねぇ今晩だけ」
「…」
「何なら今からでもいいですよ」
「あんたもしつこいね」
正直全くタイプじゃないよ。そのケバい化粧もむせ返るくらいに漂う香水の香りも。あとやたら積極的なとこも。なんて言うか、雛と正反対の女だ。
「いいじゃないしつこくても、一晩だけの可愛い我が儘と思って下さいよ」
「悪いけど、俺雛意外とそういうのする気ないから」
「雛?ああ、団長さんの彼女ね」
「そうそう、分かったらもう纏わりつくのやめてね」
言って女に背を向けたのに、まだ腕にしつこく絡まる腕。女は猫撫で声で話す。
「ねぇ、本当に雛さんって団長さんの彼女なんですかぁ?」
「は?」
「だって、一度も抱いたこと無いんでしょ?」
「…」
「それなのに彼女だなんて」
何この女…ウザい。殺そうかな…
「ねぇ団長さん、この際だから乗り換えちゃったら?」
「…」
「抱かせてもらえないんでしょ?どうして団長さんみたいなイイ男があんな地味な女相手にしてるのか前から疑問だったのわたし」
「…」
「わたしだったら満たしてあげますよ、心も身体も」
「…」
本気で殺そうかと思ったその時、遠くからパタパタと走る足音と声が聞こえた。
「神威団長ー」
聞き間違うはずもない。それは雛の声で、足音はどんどん近付いてきて、
「あ、神威団…」
雛は俺を見て足を止め、笑顔も消す。腕いっぱいに抱えている真っ白な花が数本床に落ちた。
「あ、…ごめんなさい」
急に謝った雛に疑問を感じつつも、俺は女の腕を無理矢理ほどいた。すると雛は慌てて言う。
「あ、団長あたしは後でも全然いいので」
「なんで?」
俺は首を傾げた。
その花のこと、俺に教えに来てくれたんでしょ?聞くよ、君の話なら。
目をパチパチさせてこっちを見る雛から女へと視線をうつす。
「俺たちそんな汚れた付き合い方してないんだよね」
俺らしくないセリフだと分かっていても、言えばスカッとする。女のケバい顔が不快そうに歪む。酷い顔に拍車がかかった。俺は笑いながら言葉を続けた。
「たぶん、あんたじゃ俺を満たすことは出来ないよ、あんた全くタイプじゃないし、それと地味な女じゃなくて可愛い女ね」
意味不明って顔をするから親切にもう一言付け足してあげる。
「俺の彼女の話」
一度ニコリと女に笑顔を向けて雛のもとへ。
殺されなかったのは雛のおかげだよ。
綺麗に恋する
後で雛に言い過ぎだと怒られた
100000超えありがとう!!
20090802白椿
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