「雛ー、おはよう!」
聞きなれない声に振り返る。見れば小さな男の子がこちらに向かって駆け寄ってきていた。
「ん?」
春雨にこんな小さな子いたっけ?
「雛ー」
目の前で立ち止まってニコニコ微笑む少年。桃色おさげの少年。桃色?おさげ?
「君、だーれ…?」
「誰だと思う?」
「…」
まさか、まさかまさか、…!!
「隠し子!!?」
「は?」
これはどう見たって神威団長の遺伝子だよね!?こんな子供がいたなんて!!なんだコレあたし騙されてたってことになるの??なんだコレあたしはどうすればいいの??でもでもどうしようもないよねこの子に責任はないし、それになんか可愛いぞ!!ちっさい団長みたいだ!!桃色もみつあみも全部全部神威団長と一緒!!!!可愛すぎる!!鼻血でる!!!
「ぼ、ぼく!!あたしに会ったことはお父さんに言っちゃダメだよ!!」
「ん?なんで??」
「あたしには内緒にしたいはずだから絶対にダメ!!」
「は?」
「お姉ちゃんは大丈夫だから!!一人でちゃんと話つけられる!!もとの世界に帰りたくなったとか春雨の生活は居心地が悪いだとか理由ならいくらでも作れます!!だからお父さんには言っちゃダメ!!」
言っていて自分も混乱してきた。あたしやっぱ帰った方がいいよね…!!。てか子供いるなら言ってくれればいいのに…!!。なんか、目の端から悲しいヤツがはみ出そうだ。
「雛勘違いしてるでしょ」
「いや、これは確実にもうダメです…帰ろうそうしよう!」
「待ちなよ、俺神威だよ」
「お父さんと同じ名前つけられたの…?夜兎の文化??」
「違う違う、正真正銘俺が神威だよ」
「…何言ってんだ…?」
「だから、俺が神威」
「いや、神威団長はそんなに小さくないし、もっとカッコいいですよ」
「わぁ、それは嬉しいこと言ってくれるね。でも俺神威」
「嘘だぁ」
「ホントだぁ」
「証拠は…?」
―――――**
そう訊かれたので、雛と出会ってから今までのことを事細かに説明してあげた。
「これが初めてキスした時のエピソードである」
「もう黙って」
そしたら案の定真っ赤になって信じてくれた。それからしゃがみ込んで俺と目線を合わせる。
「ど、どうしてそんなになっちゃったんですか?」
「分からないんだなぁこれが」
「えー!!理由分からないんですか!!」
「うん」
「よくそんなに呑気でいられますね!」
「まぁ自然にこうなったからね、自然に元通りになるかなって」
「めっさポジティブ」
すごくあわあわする雛。不思議な感じ。いつも自分より低い位置にある雛の頭が上にある。見上げなきゃならないなんて。俺としては見下ろしたいよね。だけどあわあわする彼女を見ているのはけっこう面白いので黙って見守ることにした。
「落ち着けあたし、そうだそのうち元に戻るはずだ!!いざとなったら医務室行けばいいし、阿伏兎さんにだって相談できるじゃないか…大丈夫大丈夫」
暫くしたら、落ち着いてきたらしい。雛は俺に言う。
「何か困ったことあったら言って下さい、お手伝いしますから」
「ありがと」
確かに背が低いっていうのはちょっと不便かもしれない。ドアノブですら手が届くか届かないかの瀬戸際である。いろんな物がいつもより大きく見えて面白い。でも見上げなきゃならないものばかりで少し気分が悪かったりもする。
「あ、団長あたしがやります!!」
しかしそのぶん雛がいつもより俺にひっついて来てくれるから可愛いなぁとか思いながらこの幼児姿を堪能していた。だが、可愛いと思っているのは俺だけではないらしい。
「神威団長お菓子食べますかー」
雛の俺に対する態度が、なんか、
「神威団長眠くないですかー」
明らかに小さい子向けの喋り方…。まぁ、それも可愛いからいっか。
「雛ーだっこー」
「はーい」
「雛ーおんぶー」
「はーい」
「お腹すいたー」
「はーい」
それはそれは笑顔で対応してくれる。なんていうか周りにハートが飛んでいる。ハート乱舞。つまり小さくなった俺にメロメロらしい。いっつもニコニコと俺を見守っている。雛がお母さんになったらこんな感じで子供の世話すんのかなぁってちょっと想像した。いいなぁ雛の子供。俺がなりたいくらいだ。
「雛ーお風呂一緒しよー」
「はーい」
いやいやいやいやいやいやいや、アレ??それOKなの??ダメだよね?てっきりこれは断られるだろうと思ったのでビックリして一瞬思考停止した。
「めっ!!」
「いた」
軽くチョップしてやる。確かに今はガキだけど、俺神威だからね。
「貞操管理はしっかりしなきゃ」
「す、すんません」
「前に俺が誘った時は断固拒否したくせに」
「…すんません…だって」
「だって?」
「今の団長ちっさくて可愛いからいいかな…って」
ふーん…
「…今の俺可愛い?」
「…はい」
「好き?」
「はい、なんか、癒されます」
「だからなんでも許しちゃうんだ?」
「…」
少しムカついた。
―――――**
ゾクっとした。目の前にいるのは小さな男の子のはずなのに、そんな気がしない。ちょっと首を傾げるとことか、少し目を細めるとことか、神威団長がちょっと機嫌を損ねた時のしぐさ。目が子供っぽくない…なんていうか神威団長の目だった。
「…神威団長?」
「こっちの方がいいの?」
「え…?」
「雛はこっちの俺の方がいいのって訊いてんの」
「…」
「いいよ、じゃあ一緒にお風呂入る?」
「…いえ、遠慮しときます」
「そ?」
言った瞬間ニヤリと怪しく微笑んで、
シュンッ
神威団長の姿が消えた。
「わぁっ!!」
ものすごい力でドテッっと床に押し倒されて、目を開いたらちっこい団長が上にのっかっていた。うん、押し倒されたって言うよりは乗っかられたって感じだ。だけど小さいくせに力は強い。しかもなんか、怒ってる…?オ、オーラがさぁ…。こんな時ではあるけれど、ニコニコしてる顔は怒っているのだろうけど、やっぱ可愛い…なんてね。
「ねぇ、キスしよーよ雛お姉ちゃん」
前言撤回。可愛くねぇなこりゃ。たちが悪すぎるだろ…。
「…あの、…無理」
「ふーん、なんで?お風呂は一緒してもいいのに?」
「いや、…こういうのは、」
お風呂を一緒するって、そういうエロい感じでOKしたんじゃないもん…。キ、キスとかは、そう、やっぱ、そういうのは、
「大きい団長の方がいい」
言ったら小さい団長は目をパチパチさせた後にニッコリ笑った。そんで、
「そう」
言って顔を寄せてきた。あれれ?わたし嫌って言わなかったっけ?あ、嫌とは言ってないか、無理って言ったんだ。でも拒否したよね??アレ?アレレ??と思っている間にも距離は迫って、唇が触れそうになったので目をぎゅっと閉じた。なんかこんな小さい子に迫られてるって変な感じだ。自分が気持ち悪い。けど、確かに現在進行形のキスは団長のだなぁとか変なこと思って目を少し開けてビックリ仰天。
ガリッ
「…いい度胸だね雛」
思わず団長の舌を噛んでしまった…。だって、だってだって、
「…戻ってる!」
「…効果が切れたんだ」
「は?」
今目の前にいるのは確かに神威団長だった。大人な団長だった。途端に恥ずかしくなってくる。顔に熱が集まってくる。爆発しそうになる。団長はポケットに手を突っ込んで小さな小瓶を取り出して見せた。その中には真っ白な丸い錠剤が沢山入っている。
「阿伏兎のお土産第二段!」
阿伏兎さん!!!!後で殴ってもいいかな…!!マジろくなもん買って来ないんだから!!!てか幼児化の理由分かってたんじゃん!!!
「ねぇ、雛」
「…なんですか?」
「さっきのもう一回言って」
「ん?」
「どっちの俺がいい?」
「……今の神威団長がいいです」
言ったら嬉しそうに笑う。
「だよね、だってこういうこと出来ないもんね?」
「へ?」
再び口を塞がれた。
戻った途端に
お母さんじゃなくて女になった君に気を良くしました
メロメロの質が違ったわけですね
最後の100000
最後がコレか(笑)幼児化でした
20090826白椿
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