そいつは、全くといっていいほど、この春雨第七師団に不似合いだった。
初めて見つけたのは食事のとき。
筋肉ムキムキのごっつい野郎の中に輝く白い肌の少女。とても戦闘能力の長けていそうもない華奢な身体は、男達の中ではいっそう小さく見える。
彼女は白いご飯を目の前に、とてつもなく幸せそうに微笑んでいた。周りにピンクの花でも振りまけるんじゃないかってくらいにニコーーーーっとしていて、ものすごくご飯が好きなんだろうと思った。


次に見たのも食事のとき。
その時、彼女の隣には阿伏兎がいて、二言三言会話をした後、阿伏兎は席を立ってこっちに来た。知り合いかと思って、


『あいつ誰?』


と聞いたら、


『ついこの間入った新人だ』


と言った。すごい白い肌をしているけど、夜兎ではないらしい。でもそれなりに強いんだって。
あんな弱そうな身体でどうやって戦うんだろう…?と少し思ったけど目の前にあるご飯への食欲が、そんな疑問を吹き飛ばしてしまった。ふと見ると、彼女はこの前と同じように幸せそうにニコニコしてご飯を食べていた。


それからしばらく食事のときに彼女を見つける日々が続いた。
彼女はいつもニコニコとご飯を食べていた。白い肌は相変わらずで、やっぱり夜兎じゃないかと思ったけど、この前日がサンサンと降り注ぐ惑星に着陸したとき、外で元気にラジオ体操をする彼女を窓から発見したので、やっぱり夜兎じゃないんだと思った。他に彼女と一緒にラジオ体操をしていた面識のない野郎3人を、特に理由はないけど殴っておいた。


そして今日。
惑星一つ潰した任務の後の食堂。
戦闘から帰ってきたヤツらで溢れていたそこは、汗の匂いとか血の匂いとか、いろんな匂いで充満していた。
ご飯は後にしようかと思ったとき、彼女を発見した。いつもみたいに、白いご飯を目の前に、ニコーーーーっとしている。ただいつもと違うのは、彼女が血まみれだということだった。白い肌に赤い血がよく栄える。俺は口端が自然と持ち上がるのが分かった。


ああ、彼女も俺達と同じだったか


血をつけたヤツらは他にも沢山いるけれど、彼女はその中でも特に赤く輝いて見える。綺麗だと思った。


「いただきます」


嬉しそうに言って、血まみれの手で箸をを持った彼女に近づいていった。


「こんにちわ」


笑顔でそう言ったら、彼女もこんにちわと言う。でも、視線はご飯に向けられたままだった。


「仕事どうだった?」

「楽しかったですよ」

「何人殺した?」

「覚えてないです」


彼女は答えながらも、どんどんご飯を口に運んでいく。それはそれは幸せそうに食べていた。しゃべるのと食べるのを両方同時にこなすなんて器用な子だ。


「君強いんだってね」

「そんなことないですよ」

「はは、でも阿伏兎が言ってたよ?」


彼女は、へー阿伏兎さんが、と楽しそうに言って、ようやくこちらに視線を向けた。俺の目と彼女の目が合う。


「君名前は?」

「なまえです」


視線はこちらに向いたけれど、なまえはやっぱりご飯を口に運ぶ。盛られたご飯はどんどん少なくなっていった。あと二口くらいだ。


「ねえなまえ、今度俺と一緒に仕事しない?」

「いいですけど…」

「けど何?」

「あなたはいったい誰ですか?」


彼女は最後の一口を口に運びながら言った。









べつに団長であることを誇りに思っているわけではないけれど










普通、団長の顔くらい知ってるでしょ

なまえは全く俺に興味がないらしい。その事実にちょっとムカついた。









20090209白椿



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