「よし!ケーキを作ろう!!」


そう思い立って二時間後、ふわっふわに出来上がったシフォンケーキを丸いお皿に乗せて、満足気に微笑む宇宙海賊船の厨房。


「喜んでくれるといいなぁ、阿伏兎さん」


何故、あたしの上司阿伏兎さんにケーキを作ったかといえば、この前の地球での任務に原因がある。
吉原での任務だったのだが、なんと阿伏兎さんは左腕を失って帰ってきたのだ。
どうして腕が無いのかと聞いたら、


『まだ右腕があんだろ』


と、全く答えになってない返事をされた。
ここは部下であるあたしの出番でしょ?
阿伏兎さんに元気を出してもらおうと思ったのだ。
さあ、早く出来たてを阿伏兎さんに持って行かなければ!!と思ったときだった。


「わあ、おいしそー」

「あれ?…団長さん?」


いつの間に入ってきたのだろう…?
春雨の団長神威さんがすぐ隣に立っていた。阿伏兎さんに危険だから近付くなと言われているあの神威さんだ。


「いつの間に入ってきたんですか?全く気付きませんでした」

「ん?今さっき。君は確か阿伏兎の…」

「はい。阿伏兎さんの部下のなまえです」

「なまえね、ねぇこれ食べていい?」

「え?、ああこれは…」

「食べていい?」


団長さんは顔をぐいっと近付けて訊いてきた。
なんでだろ…団長さんはとっても笑顔なのに、見えない圧力を感じる。


「…どうぞ」


何となく、ダメと言ったら怖いことが起きる気がした。
まぁ阿伏兎さんもさすがに全部は多いだろうから、団長さんに分けてあげても問題はない。
あたしは、ちょっと待って下さいねと言って、包丁を取りに行った。そして戻ってきたら何も乗ってない丸いお皿があった。


「おいしかった」

「あれ?」

「なまえは料理上手だね」

「もしかして…」

「どうしたの?」

「団長さん全部食べちゃったんですか!?」

「うん」


いや大食いなのは知ってましたけどね…。二時間かけて作ったケーキが数秒でなくなるとは思わなかった。せっかく阿伏兎さんのために作ったのに残念だよ。
ふと見れば、満足そうな団長さんの顔。
仕方ない、もう一度作ればいいんだ。阿伏兎さんの上司だもの、何も言うまい。


「せっかく阿伏兎のために作ったのにゴメンネ」

「いえ……って、団長さん!!?あたしが阿伏兎さんに作ったって知ってたんですか!?」

「そりゃ知ってるよ」

「じゃあ何で食べちゃったんですか!?」

「なんていうのかなぁ、ジェラシーみたいな感じ?」

「はあ…」


訳が分からなかったけど、文句を言ったところでシフォンケーキは団長さんのお腹の中だ。戻ってはこない。だから文句を言うのはやめることにする。それに文句を言ったら、やっぱり怖いことが起きる気がした。


「それにしても、どうして阿伏兎にケーキ?誕生日だっけ?」

「いいえ、阿伏兎さんこの前の任務で腕無くしてきたじゃないですか、だから元気づけにと思って…」

「ふーん」


そういえば、あの任務は団長さんも一緒だったよね?と思って、あたしは団長さんに聞いてみることにした。


「団長さん」

「何?」

「何で阿伏兎さんの左腕が無くなったのか知ってますか?」

「知ってるよ」

「本当ですか!?」

「うん。知りたい?」

「はい!阿伏兎さん教えてくれなくて…」


団長さんは阿伏兎は酷いヤツだねと笑った。


「阿伏兎の腕をやったのは鳳仙の旦那だよ」

「鳳仙って、あの夜王鳳仙ですか!!?」


団長さんはコクリと頷いた。
ビックリだ。そうか夜王鳳仙だったか…。なら腕だけで済んだのは奇跡かもしれないなと思う。阿伏兎さんは強いけど、さすがに夜王相手じゃ厳しいだろう。
となるともしかして、


「もしかして、団長さんが阿伏兎さんを守ってくれたんですか?」

「ん?んーー、まぁそんなとこかなぁ」

「あ、ありがとうございました!!」


あたしは深々とお辞儀した。
なんだ阿伏兎さん、団長さん強くて優しい良い人じゃないですか!
阿伏兎さんが生きて帰ってこれたの、団長さんのおかげじゃないですか!!
あたしの中の団長さんの好感度が急上昇した。


「はは、なまえは面白いね」

「団長さんは素晴らしい人ですね!上司の鏡です」

「そう?」

「はい!」

「じゃあ、そう思っておいてよ」


団長さんは可愛らしい笑顔であたしに言う。


「ところでなまえは阿伏兎のこと好き?」

「はい!大好きです!!」

「ふーん」

「一生お仕えするつもりです!!」

「そっか、…じゃあ







今からちょっと殺してくる










「え、はぁあああ!!?」

「なまえ、うるさいよ」

「だ、だって団長さん!?何でですか!?」

「んー、ジェラシーみたいな?」

「はあ?」





要するに君が好きになったんだ






20090209白椿



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