例えばの話。
わたしがわたしじゃなくて神楽ちゃんだったら、もっと純粋に貴方に近付けたと思うのです。大好きだととびっきりの笑顔で言えたと思うのです。しかしながら、わたしは神楽ちゃんではなく、ただの夜兎族のなまえであり、貴方とは血の繋りのない他人。幼馴染みというポジションにいます。
例えばの話。
わたしがわたしじゃなくて阿伏兎さんだったら、もっと貴方と戦場を共にできたと思うのです。力に多少の差はあれど、対等に貴方と向き合えると思うのです。貴方にもっと頼ってもらえると思うのです。しかしながらわたしは阿伏兎さんではなく、ただのなまえであり、貴方とは性別も違います。いつも守られてばかりの役にたたない子です。デスクワークだって人並みにしか出来ないのだから、もうどうしようもないです。
例えばの話。
わたしがわたしじゃなくて銀髪のお侍さんだったら、貴方に興味を持ってもらえる存在だったら…。ううん、ただの興味じゃない。一匹の獲物として興味を持ってもらえたなら、わたしはもっと強くなれたと思うのです。貴方のために強くなろうと頑張れたと思うのです。しかしながら、わたしは銀髪のお侍さんではなく、地球産でもないただのなまえだから、夜兎族だから強くて当たり前で、だけど夜兎としては弱くて。こんなんだから、わたしには何も魅力はないのです。
例えばの話。
今押し倒されている理由が、ただ子供を産んでほしいというものだったら、わたしは頑張って子供を産もうと思うと思うのです。貴方の子供ならさぞかし強くなるでしょう。その子は貴方にあげましょう。煮るなり焼くなり好きにすればいいです。だけどどうやら、貴方はそういう理由でわたしに言い寄っているのではないらしい。わたしはその理由をひたすら理解したくなくて…。
「愛してるんだ、君を」
目を瞑る
耳を塞ぐ
わたしはただの夜兎族のなまえです。神楽ちゃんでも阿伏兎さんでも銀髪のお侍さんでもない。ただのなまえ。貴方とは他人で性別も違うし、獲物としては不十分。だけど性欲処理くらいなら出来ます。それくらいなら、なんて言ったら貴方は少し悲しそうに笑った。
「愛してるんだ、君を」
目を瞑る
耳を塞ぐ
そんなの嫌だなぁと思います。愛されるなんて気持ち悪くて嫌です。わたしはそんなことのために貴方の近くにいるんじゃないのに…。強くて何にも振り返らない貴方を見ていたかったのに。
「わたしがわたしなのは、逆らえない運命ですね」
不本意なヒロイン
20090716白椿
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