「ふふっ…っ…ふーっ」


真っ赤に染まった世界の中心に、俺の部下はいた。


「くっ、ふーっふ…っ」


長くて艶やかな黒髪がべっとりと白い肌に絡み付いている。沢山の死体に埋もれるように膝を着いて、何かを押え込むように両手で口許を覆っていた。降りしきる雨が彼女を遠慮なく打ち付けて、髪や服は溢れるほどに水分を含んでいる。赤黒く染まった雨が彼女から滴ちては血溜まりを広めた。


「ふっくくっ…ふーふっふ…」

「なまえー帰るよー」

「くっ、ふーっ…ふーっ」


笑いたいのか泣きたいのか、なまえは乱れた深呼吸を何度も繰り返している。チラリと寄越した視線が殺気を帯びていた。


「なに??」

「ふーっはーっ…くふっ」

「…まだ満たされてないんだね」


夜兎の狂喜。発作のように襲いくる渇き。この一面の死体、また派手にやったもんだ。呼吸もままならない彼女は、必至に自分を押さえ込もうとしているように見える。きっと俺を殺せと夜兎の血が命じているのだろう。


「なんなら今から一戦付き合おうか?」


手を差し延べたらベチッと鈍い音と共に振り払われた。


「…」

「ふーっ…ふーっ」


そのまま体を引きずるように俺から離れる。

ああ…そういえばなまえはこの狂喜を嫌悪していたっけね。誰かれ構わず殺す兵器にはなりたくない、この力は俺を守るために使うんだと言っていたなぁ。だけどこの死体の山を見れば分かる。血には抗えないんだ。


「なまえ、このままいて辛いのはなまえだよ」

「ふーっ、はーっはーっあっ」

「いいから我慢せずに本能に委ねな」

「くっ…や、やだあっくはっ」

「俺はなまえなんかに殺されたりしないよ?ちょっと殺り合えば落ち着くから」

「ふーっ…ふーっ…」

「俺がなまえを殺すこともしないよ。女を殺す趣味はないって言ったよね?」

「はーっ…ふーっ…」


優しく言ったのになまえはブンブン首を振った。


「はぁ…しょーがないなぁ」


なまえは変なところで弱くなる。素質は十分あるというのに。心構えがまるで地球産。だけどやはりなまえは夜兎で、


「よいしょ」


ドサッ


血溜まりの中に押し倒して服を胸元から破く。


「くわっ!!だっ…ちょ…なにっ!」

「一発ヤれば体は騙せるから我慢しなよ」

「ちょっま…んあっ!」


血に濡れた彼女はひどく綺麗だ。







本能に頭を垂れる










20090615白椿



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