パキッ…
皮膚に一つ亀裂が入る。太陽の光はわたしにとって毒以外の何モノでもないらしい。皮膚はヒリヒリ頭はグラグラ。だけどなんとなく太陽の光を浴びる。
「なーにやってんの?」
少し視界が暗くなって、見上げたら神威団長が傘をこちらにかざしてくれていた。
「少し日光浴を」
「あんたバカ?死んじゃうよ」
「ははっ…」
雲一つない綺麗な青空。砂漠気質の惑星。雨は滅多に降らないのだろう。砂はサラサラと乾燥していて、空気もカラッとしている。
「そろそろ船に戻ってこいってさ」
「わざわざ団長が呼びに来て下さったのですか?」
「感謝してよね」
「ありがとうございます」
少し微笑むと、団長も笑って、
「なんでまた日光浴?」
そう訊かれた。わたしは苦笑して話す。
「太陽と仲良く出来ないかなーって思って」
「…」
「何となく、太陽って汚れたモノを浄化してる気がして、…だとしたら、太陽が苦手なわたしたちは汚れてるのかなって、なんで太陽はわたし達を嫌うのかなって思って」
「…」
「ちょっと、太陽の気持ちを聞いてみたくて」
「ふーん、やっぱあんたバカだね」
「ははっ、何も言い返せないです」
「それで太陽の気持ちは分かったの?」
「いいえ、でも太陽はわたしのことだいぶ嫌いみたいですね」
「…」
「わたしはけっこう好きなんですけどね」
「太陽が?」
「はい」
「物好きだネー、太陽はあんたを殺そうとしてんだよ」
わたしは苦笑する。確かに。太陽はわたし達夜兎の天敵だ。でもそれと同時にとても美しくて温かい存在であると思うのだ。どうしても惹かれてしまう。
「そうですねー悲しいです。」
わたしは神威団長の顔を見る。ニコニコと笑う団長の顔にはどこか不機嫌なオーラが纏りついているように見えた。わたしは少し疑問に思いながらも、気にせずに団長のかざす傘から一歩外へ出て空を仰ぐ。
「でもわたしは、殺されるなら太陽にがいいですねー、…理想の死に方は、」
そう言った刹那、神威団長の傘が宙を舞って、わたしは左手をグイッと強く引かれた。
ふわり
団長の傘が地面に着地して、わたしはそれを目で追う。パキッと皮膚に亀裂が。わたしにも、団長にも…。
「神威団長、傘…」
キュッ
腰に手を回される。気付けば強く抱き締められていて、
「え?…ん?」
なんでか全く分からないけれど、でもとりあえず傘をささなくちゃ神威団長が…と思って傘を拾いたいのに、抱き締められていてはそれも出来ない。
「団長、傘が…」
もう一度言えば、団長は少し力を緩めてわたしと視線を絡ませる。
「今の発言撤回して」
「え…?」
「今の発言、撤回しなよ」
「…」
なんのことか分からなくて、瞬きしか出来ない。すると神威団長は、
「分からない?鈍感だネ」
少し不機嫌そうに言って、顔を近付ける。
「団長…?」
神威団長があまりにも顔を近付けるから、少し顔を引くと手でがっちり固定され、
「太陽からは逃げないのに、俺からは逃げようとするんだ?」
チュッ
「…!」
唇が優しく触れて、わたしはようやく状況を理解した。顔が熱くなり、ドクドクと心臓が脈打ち出す。
唇が離されると、今度は恥ずかしさから何も言えない。
「あんたは太陽には殺させないよ」
神威団長は耳もとで低く囁く。
「太陽なんかにあんたをくれてやる気はない。あんたを殺していいのは俺だけだ」
「…」
「だから、勝手に死ぬのは許さない」
「…」
「返事は?」
「…は、い」
ちょっと刺激的すぎて、死にそうなくらい心臓がドキドキしていた。
団長はわたしを解放すると、傘を拾って微笑んで言う。
「太陽ばっか見てないでネ」
…君は俺だけ見てればいい
太陽の下でキスを、
太陽に見せつけてやろう。彼女は俺のものだって。
企画『かむたん』様提出
20090527白椿
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