フラれた。大好きだった阿伏兎にフラれた。一大決心だった告白は、あっさりと、しかし大人の優しさを持って断られた。そんなあたしの顔は涙と鼻水でグチャグチャでさ、誰にも見られたくなくて部屋に引きこもろうとしたのに、いざ部屋に入れば、


「うわー、ひっどい顔」


とケタケタ笑う神威団長。わたしはもう堪えられなくてビエーン!!と声を大にして泣いた。


「だから俺にしとけって言ったのに」

「ぐずっ!と、ずぴっ…っどじどざだん゛で!!」

「は?なんて?」

「どじの゛ざだん゛で!!」

「なんつってるか分かんないよ」


ケタケタ


わたしはずぴっと鼻を大きくすって叫んだ。


「歳の差なんてどーしよーもないじゃん!!!」


断られた理由だ。いや、もしかしたら他にも理由はあるかもしれないが、阿伏兎に言われたのは歳の差。確かにちょっと差はあるさ。わたし団長より年下だしさ。だけどこれはどーしよーもないじゃん!!努力してどうなるもんでもないじゃん!!酷い!!


「なんであんなおっさんを好いたの?」

「…ずぴっ…うぅっ」


もう、神威団長どうしてここにいるんだ。出て行ってくんないかなぁ!!今わたしの心は非常に脆く儚い状況なんだ。団長の相手をしている場合じゃねぇんです!!と言う元気すら沸き起こらない。ずぴっ、ぐすっと、濁った嗚咽が虚しく響く。


「よしよし」


涙でぼやけた神威団長の顔。頭をよしよしされて、さらに泣きたくなるのを堪えて言う。


「…本気だったん、で、ず…」

「うん」

「本気…だっだんでずょ…」

「はいはい」


歳の差なんて、本当にどうしようもないじゃない。それは阿伏兎だって分かっているはず。つまり、彼にとってあたしは恋愛対象としてはありえないと言われているも同然。


「ねぇ」


神威団長の声に顔を上げると、ニコニコといつもの笑顔。


「俺と付き合おうよ」

「…」


本気で言っているのか分からない。いや、本気かもしれないけど、その誘いに愛があるとは思えなかった。今までにも似たようなことを何回か言われたが、阿伏兎という存在があったから無視していて。しかし今、その断る理由が無くなってしまった今、わたしはどうしたもんかと考える。涙と鼻水で顔をグシャグシャにして暫く考える。そして出した答えは、


「お、おごどわりじばず」


お断りします、だ。


「えー、なんで?阿伏兎にフラれたんでしょ?」


…ずずっ


「いいじゃん。その心の傷を癒すためと思ってさ」

「嫌でず」

「…」


好きじゃない男の女になるのは嫌だ。それくらいなら独り身でいたいというのがわたしの考えだ。神威団長は恋愛対象から大きく外れた所にいるお方なのだ。


「…ふーん」

「…」

「まぁいいや」

「…」

「俺いつでもフリーだからさ、気が向いたら声かけてよ」


意外な言葉だった。我が儘で強引なイメージの神威団長から、まさかそんな言葉が発っせられるなんて。も、もしかして、わたしに気ぃ使ってます?


「とにかく、泣くのはもうやめなよ、顔が悲惨だから」


なんてケタケタ笑いながら部屋を出て行く。ずぴっとわたしが鼻をすするのとドアの閉まる音が重なって、その後は沈黙の空間。なんか微妙な優しさを貰った気がした。だけどわたしは素直じゃないから、絶対に神威団長の彼女になんかならないぞと心に誓う。ずっと独りでいようとさえ思った。しかし誰が予想出来ただろう。そんなわたしが、絶対に神威団長の女にはならないと、それを意識し過ぎてだんだん神威団長という存在を意識していくようになり、やがて神威という一人の男に好意を抱くようになるなんて。



いや、よくあるパターンだよ



タリラッタ〜
ありきたり〜










20090503白椿



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