女という生き物はこの世界に星の数ほどいるわけで、付き合おうと思えばいくらでも、ヤろうと思えばいくらでも相手は探せる。今まで何人抱いたかなんて覚えてないけど、彼女はその沢山いる抱いた女の中の一人だった。恋人なんて甘い関係ではもちろんないし、俺もそれを望んではいなかった。他にも相手にしている女がいたから、たまに気が向いた時に彼女の部屋を訪れて一夜を共にし、終わったら早々に帰る、そんな日々をしばらく続ける。彼女は特に抵抗も拒否もしないでいつでも快く迎えてくれたし、愛などという面倒なものは求めてこなかったから、気が楽だった。まぁつまりお互い体しか求めていなかったんだ。それはとても単純かつ明快な関係であり、お互い負担にならない良い男女関係。なのに、いつからだったか、俺はそんな関係が嫌になってしまった。いつも彼女のことが頭にチラチラチラチラ。加えて笑顔が見たいだとか、泣き顔もいいだとか、他の野郎と親しいのが気に食わないだとか、もっと触れたい…もっと俺を見てほしい…だとか。気紛れに訪れていた彼女の部屋へ、気付けば週一で、そして週二、週三と足を向ける数が増えていく。彼女は今まで通り快く迎えてくれたけど、それは本当に今まで通りで、つまりは夜の行為しか求めていないということ。だんだん物足りなくなってきてしまい、ついに今日、俺は確かめることにしたんだ。いや、試すの方が正しい。


「俺さ、本気で好きな子できたんだよね」


彼女はどんなふうに反応してくれるのか。彼女の中に俺はどれくらい入り込めているのか推し量りたくて出た言葉。きっと少し期待していたんだろうね。彼女もそれなりに俺のことを思ってくれているんじゃないかって、動揺してくれるんじゃないかって。

「そうなんだ。良かったね」


だから笑顔でそう返された時はちょっと言葉に詰まった。彼女は続ける。


「じゃあもうあたしのトコには来ない方がいいね。その子に誤解されちゃうよ」


ホッコリと微笑む。俺が大好きな可愛い顔。とても虚しく映る。実は好きになったのは君なんだよ、そんなセリフ言うのは簡単だったはずなのに、口は動いてくれなかった。さらに彼女は言う。


「実はさ、あたしも最近彼氏に勘づかれ始めててね、ちょっとヤバいんだ。お互いこれくらいにしておくのが無難でいいかもしんないね」


ああそうなんだ、彼氏…いたんだね…。俺はもう何も言えなくて、ただ笑顔で別れ話を進める彼女を見つめていた。


「神威のことけっこう好きだったよ、バイバイ」


その言葉を背に部屋を出る。ああ、なんて情けないんだろう。笑えない。けっこうマジだっただけに堪える。弱くなった俺を誰か笑えばいいのに、通路はシンと静まり返って虫一匹すらいない。気持ち悪いくらいにすべてが虚しかった。恋愛って難しいんだなぁって思いながら、俺は今閉めたばかりのドアの向こうで、まさに彼女が泣き出したという事実を知らずに、重たい足を引きずって歩き出したんだ。





作り笑いができなかった

彼女は見事にやってのけたというのにね










企画『割れる』様提出
嘘がテーマの失恋夢
20090406白椿



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