団長はご飯と女が好きだ。まぁこの二つが嫌いなんて言う野郎はあんまいないと思うが団長はこの二つが好き。あ、あと戦場ね。戦いと強さを求めて、日々ちゃらんぽらんと生きていらっしゃる。仕事はあんましないし、フラッとどっかに消えることもしばしばで、まぁあたしは春雨の下っ端の下っ端の下っ端だから、団長が仕事をしないからって特に被害は受けないし、問題も無い。ただ阿伏兎さんがそれによってかなりヘビィな労働を強いられているのが気掛かりだった。いつも顔には疲労の色が浮かんでるし、髪だってボサボサ。そんな姿を目の当たりにしては胸を痛める今日この頃…。そう、あたしは阿伏兎さんが大好きです。一人の男として愛しています。だけど、阿伏兎さんとあたしにはかなりの年齢差があって、こんな小娘相手にしてもらえないだろうなぁと、すでに諦めの境地。年齢差をカバーする、色気や才能やルックスは残念ながら持ち合わせてない。つまりアピールする所が全く無いあたしは、こうして隠れた所から愛しい彼の体を気遣っているのです。それはそれでいいのだ。片思いしてる時が一番楽しいって言うし、あたしも何か特別な関係を求めているわけじゃない。ただ一つ問題が発生して、


「ねぇ、あんたさ俺と一発ヤらない?」


自分の耳を疑った。桃色の髪が美しい我らが団長様から発せられた言葉。おそらく春雨にいる女達はこの誘いに二つ返事で飛び付くだろう。だけどあたしはそういうわけにもいかなくて、だって思い人がいるのだから。一発ヤるってつまりは夫婦の夜の営みでしょ?あたしと団長は夫婦はもちろん恋人でもないし、あたし別に団長好きじゃないし、処女だし。だいたいなんであたしなんかを誘うのか皆目検討もつかない。そうか、あたしの物差しで物事を測るからいけないんだね。ここは神威団長の物差しで考えないと。と思って考えた末出てきた答えが、あたしは性欲処理の道具。まぁ間違っていないでしょう。このニコニコうさん臭すぎるものね。だからあたしは断ろうと思ったのです。誰か他を探して頂けませんか?って。


「えーー、あんたじゃなきゃヤダー」


おいおいマジ勘弁。何可愛いく首傾げちゃってんですか。恋人でもないのになんであたしが団長の相手しなきゃならないんだっつー話。


「じゃあ恋人になって」


いやいやいやいやいやいやいやいや…。絶対間違ってると思う。それにこんな付き合い出しは嫌です。最初のお誘いが一発ヤらない?だからね。そんな人を彼氏と呼べるほど、あたしは異性に免疫がない超ウブっ子だから、もう今神威団長の顔を見ているのも嫌なわけ。逃げ出したい。だけど団長から逃げ切れるとは到底思えないし、そんな気力すら何故か無い。


「なんでさ?いいじゃん付き合ってよ」


ニコニコニコニコ苛立たしい。なんで付き合いたくないかと言えば、あたしは阿伏兎さんに片思い中だからであって、阿伏兎さん以外の男なんて目に入らないわけで、加えて団長はその阿伏兎さんを困らせている言わば敵であるからだ。付き合う対象では全く無いのだけど、そんなこと言ったら阿伏兎さんに更なる負担がかかるんじゃないかなって思うと心配で心配で。一体どれだけ団長があたしに本気かと考えれば、本気の確率なんで鼻毛の先っちょにも満たないんだけど、団長が阿伏兎さんを困らせる確率は海より深く、山より高い。ってことで、あたしは団長に抱かれてしまいました。すごく痛かったし、もう気持ち悪くて気持ち悪くて吐きそうだったけど、終わってみたら阿伏兎さんを守った感でいっぱい、満足している自分がいました。あたしは阿伏兎さんの役に立ったかなって。だけど、相変わらず団長は阿伏兎さんを困らせている。阿伏兎さんの疲労の色は消えない。阿伏兎さん、今日も疲れた顔してたなぁ、後でマッサージしてあげよっかな…。そんなふうに阿伏兎さんを思いながら、団長の彼女と団長の性欲処理を担当しているあたしは、団長がとても嫌いです。だけど今日も阿伏兎さんのために頑張っています。っていう、まぁそれだけのつまんない話なんだけどさー、



偽り彼女










20090404白椿



[*前] | [次#]