赤 赤 赤

圧倒的にその色が占める割合が多い。戦場には耳障りな叫び声や悲鳴が渦巻いていた。ついでに肉を切裂く鈍い音や、金属が擦れ合う音が脳内を痺れさせる。居心地は最高。歓喜、快感、悦楽、そんなふわふわとしかし鋭い感覚、感情がぐるんぐるんしてる。時々自分の口から漏れる笑い声にゾクリとする。


ザシューッ


相手を切裂くこの感触がくせになる。あたしは夢中で赤を追い求めていた。飛び散る温かい血の赤が、あたしを次第に潤し、同時に酷い渇きを与える。


もっと強く

もっと強さを


そんな時、視界の端を桃色がかすめて思わず振り返る。どこかで見たことあるような綺麗なその桃色は髪の毛だった。綺麗に一つのおさげに纏められた艶やかな桃色。持ち主の動きに合わせて右へ左へ軽やかに揺れる。どこかで見た光景。記憶を辿っていくとピタリと思い出される一人の人物。


「…神威?」


その呟きが彼に届くことはなくて、一瞬過去にタイムスリップしたあたしの脳内は、耳元でうるさい雑魚共の雄叫びで再び戦場に引き戻される。


ザシュッ!


鮮血が宙を舞う。綺麗に輝く赤。だけどもうその赤がくすんで見える。どこ?あの綺麗な桃色はどこへ行った?


「久しぶりだね」


それは突然耳元で響いて、


シュンッ


あたしが飛び退いて振り返ると、思った通りの人。神威。小さい頃よく戯れ合った男の子が、今立派な青年になってニコニコと目の前に立っていた。声変わりしたんだぁという妙な感動と、夜兎の血が歓喜に震える快感に、ニヤリと口が歪んだ。


「あたしのこと覚えてたんだ?」

「忘れるわけないでしょ」

「それは嬉しいな」

「どう?俺少しは強くなったでしょ?」

「さぁ、それはどうだかね」


神威がニコニコと閉じていた瞳を開く。あの頃と変わらない、純粋で綺麗なブルーの瞳。ああ、なんて素敵な瞬間。やっと巡り合えた求めていた人。さぁ、あたしを潤してよ。赤く染めて。再会の感動は血でしましょ?









見つめ合った十秒間

『神威、もっと大きくなって、そんで強くなったら、本気で殺り合おうね』

『いいね、俺が勝ったらさ、結婚してよ』

『いいよ、じゃあ、あたしが勝ったら…えーと、うーんと…まぁいいや、あたしが勝つ時は神威が死ぬ時だもん』

『あっはは、それもそうか、じゃあどっちにしても結婚無理だね』

『そうだねー』


なんて昔の会話、君は覚えているだろうか…










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企画『あぷろす』様提出
20090403白椿



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