「なまえは殺しが好きなんだね」


一人の男にとどめをさす間際、団長は楽しそうに言葉を放った。ドスッっと鈍い音と共に、男の胸を貫いて屍を放るとドサリと重たい音が響く。
真っ赤に汚れた手と身体。ぬるりと気持ち悪い感触に吐き気を覚える。殺しが好きだなんて大きな誤解だ。気持ち悪くて気持ち悪くて仕方ない。
だからあたしは、殺しが大好きで笑顔で人を殺めていく団長も大嫌いだった。


「殺し好きなんでしょ?」

「いいえ」

「嘘だぁ、だってこんなに強くて殺すの上手いじゃないか」

「好きと特技が必ずしも一致するとは限りません」

「そう?」

「はい」


屍だらけの戦場で、血に染まった団長の笑顔は不気味以外の何ものでもない。不気味どころか恐怖すら感じる。いつ自分に牙を向く気かも分からないから。
団長は何かを逡巡している様子だったが、やがて楽しそうな笑顔を此方に向けた。


「ねぇ、やっぱり殺し好きってことにしとかない?」

「はい?」

「なまえは殺しが好きって設定にしといてよ」


意味が分からない。


「…なんでですか?」

「ん?その条件がそろえば、なまえは完全に俺のタイプなんだよ」

「…」


なんて自分勝手な。
あたしは面倒になって、無視しようかとも思ったのだが、さすがに上司を無視するのはまずいかなと思い、


「殺しは嫌いです」


それだけ言った。団長は不満そうに首を傾げる。


「えー」

「…」

「それだと俺のタイプになれないよ?」

「いいですよ」

「なんで?」

「別に団長に好かれたいだなんて思ってませんから」

「ふーん」


世の中の女性が、皆団長のタイプに合う女になりたいと思っているとでも思っているのだろうか。身勝手も甚だしい。さすが我が春雨団長と言うべきか。とにかく理解し難いお方であることは確かで、


「じゃあ、今から一戦といこうか」

「はい?」


ガジャンッ!!!


どうして急に攻撃されたのかも分からなかった。
ギリギリのところで受け止めた攻撃は重くて腕が痺れる。


「何やってんですか!?痛いじゃないですか!!」

「さすがなまえ、俺の攻撃を受け止めるなんてね」

「くっ…」


さすがなものか。受け止めるのが精一杯だ。跳ね返すことはおろか、このまま堪えていることも難しい。


「どう?俺のタイプになる決心はついた?」

「い、言ってる意味が分かりません!!」


どうしてあたしが団長のタイプに合う女にならなくちゃいけないんだ!!まっぴらごめんだ。あたしはあんたが嫌いなんだ。


「早く俺の女になってほしいって意味だよ」


ニコニコと笑顔で力を加えてくる。あたしは、


「はっ、あんたの女になるくらいなら、死んだ方がマシよ!」


鼻で笑ってやる。


「ひっどいなぁ」

「それに、自分のタイプに無理矢理させようとするなんて最低だわ」


こんな男のものになるなんてごめんだ。まだ阿伏兎さんの方がいい。


「じゃあ、本当に殺しちゃうよ?」

「どうぞご自由に、あたしは春雨から解放されて万々歳だわ」


あたしはその時、初めて戦場で真剣な顔をする団長を見た。









その顔大嫌いだわ










20090326白椿



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