あたしが春雨第七師団に入団して3年が過ぎたある日のこと。
珍しく、団長があたしの部屋に来ていた。


「か、神威団長…」

「なに?」

「それ以上は、む、無理…」

ケタケタ笑いながら近寄ってくる団長。後退りすると、後ろの壁に背中が当たった。


「どーする?逃げらんないよ?」

「だだ、団長!あたし入団する時言いましたよね!?」

「ん?」

「あたしは男性恐怖症だって!!」

「知ってるよ」


笑いながらさらに近付いてくる団長は、首を傾げて足を止めた。


「半径3メートル以内に近寄らないで、だっけ?」

「そ、そそそうです!!」

「今ちょうど3メートルくらいだね」

「だから来ないで下さい!!」

「えーー」


なんて可愛らしく言っても無理なもんは無理!!
男性に近付かれると自分が制御出来なくなる。


「3メートルより近付くとどーなんの?」


団長が一歩を踏み出す。途にも面白いことなんてないですよ!!!だから近付かないで下さい!!!」


そう懇願しても団長はゆっくり歩を進める。


「2メートルより近付くと?」

「ぅおお!悪寒が冷や汗があああ!!!く、来るなあ!!」

「じゃあ、1メートルより近付くと?」

「うぎゃあああああ!!!」


団長が半径1メートルのラインを越えた時、あたしの体は反射的にその場を飛び退き、そのまま攻撃体制に入った。


「来るなっつってんだろがあああ!!」


そのまま団長に蹴りを入れるけれど、


「あっはは」


笑顔の団長は容易くその蹴りを片手で掴んで止めた。


「きゃあああ!!触んないでえ!!!」


掴まれたあたしは半狂乱になって暴れ出すけれど、団長は笑顔のままあたしを押さえ付けて床に組み敷く。


「じゃあ、触られるとどーなんのかなぁ?」

「ひぃいいい!!!」


色気のカケラも無いねと団長がニコニコ言う。
必死に手足を動かそうとしてもビクともせず、団長の力は強まるばかりで、嫌でも触れている感触が伝わってくる。

「離して下さい!!」

「嫌だ」


即答かよ!!!
団長はあたしの顔を覗き込むように見て、満足そうに笑う。


「いい機会じゃない?」

「な、何がですか!!」

「男性克服しちゃいなよ」

「この状況で何言ってやがるんですか!!!」


もう体は暑いのか寒いのか分らない。鳥肌と汗が半端なく、小刻みに震えている。
一刻も早くこの状況を打破したいが、力では団長に及ばない。


「団長お願いだから離して下さい限界です!」

「やーだ」

「何でですか!!」

「何でだと思う?」


そんなこと分かるわけないでしょ!!
ダメだ…気を抜くと意識が飛びそうだ。
あたしは震えそうになる声を絞り出す。


「だ、団長言いましたよね…?」

「何を?」

「だ、男性恐怖症でも強ければいいって…」

「ああ、そーいえば」

「3年前…」

「あんたが入団した時だろ?」


そう。あたしは戦闘能力を見込まれて春雨に入団した。その時すでに男性恐怖症だったけれど、それでもいいと言ってくれたのは団長だ。


幸か不幸か、男性恐怖症のおかげで半径1メートル以内に入ってくる野郎は片っ端からこっぱみじん。今のところ負けなしだ。
団長を除いては…だけれど。


「覚えてるなら何でこんなことすんですか!!」


この鬼畜め!!!
団長はケタケタ笑って、まぁ落ち着きなよ、とのんびり言う。

相変わらずニコニコしている団長と、体を固くしたまま動けないあたし。落ち着くなんて到底無理な話だ


「ううっ…」


初めての異性との接近のせいか、恐怖に加えて体に熱が溜まり始めてくるのが分かる。
気持ち悪いと思っても、すでに体には力が入らなくなっていて、全く力めない。


「団長、離して下さい…!」

「いーや」

「お願いします!」

「だーめ」

「団長…」

「なーに?」


なんか視界が霞んできた…。暑い…。
目に熱いものが溜まっていく。


「あーあ」

ずぴっ…

「泣いちゃったネ」


ちっくしょー…


「団長何でですか…教えて下さい…」

「何を?」

「何でこんな意地悪するんですか…あ、あたし、何かしましたか?」

「んー…教えて欲しい?」


あたしは震えながら頷いた。


「それはね、





君が俺を好きにならないから





俺は3年間も我慢したんだよ?
いい加減限界でしょ?」





(団長…あ、あたしも、…限界です…)(あり?気絶したゃった?)




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