会話をする時、揺れる瞳が訴える。貴方が何を思っているか分かるんだよって。
言葉じゃない。心で会話してる。少しでも困ったり迷ったりすると、君の瞳はすぐにけぶる。





歌声を探して
第八話





この世界では、もとの世界よりもコミュニケーションというものが激しく繰り広げられているように思う。ボケとツッコミ。日々漫才が行われているのだ。それはそれは高度な会話。例え言葉を持っていたとしても、彼らの会話に加わるのは難しいかもしれない。


「夢玻ー散歩一緒に行くアル」


だから、あたしは実は喋れない事で得してるかも…なんて罰当たりかもしれないけど、喋れないからコミュニケーションから逃げられるという甘えがあるのかもしれないと気付いたのは最近のこと。最近習慣になりつつある定春の散歩。銀時たちも一緒に行くときもあるが、ほとんどは神楽が行っている。それに付き合うようになった。というのも、


「今日は快晴アルナ〜、天気のいい日は好きヨ。太陽光はちょっと苦手だけど、やっぱ雨よりは晴れネ。」





「こういう日は定春も機嫌いいのヨ。日向ぼっこするのも駆け回るのも晴れの日の方が気持ちいいアル」





神楽は一方的なコミュニケーションが上手なのだ。これはコミュニケーションと言わないかもしれないけれど、神楽はあたしの扱いが上手い。
銀時や新八はあたしとの会話に返答を求める。それもノートに書き終わるのを何も言わずに待ってくれる。二人とも優しいのだ。だけど、あたしは気を使われることに慣れてないから、少々居心地の悪さを感じるのも事実で、


「今日な何したいアルカ?一緒に追いかけっこする?縄跳びする?昼寝する?とりあえず最初はケンケンパアル」


神楽は返答を考えなくてもいい会話をしてくれるから一緒にいて楽なのだ。

公園に着くと神楽と定春は戯れ始めるので、あたしはベンチに。二人の戯れ合いは激しくて、かなりの危険が伴うために参加は遠慮する。見ているだけでも楽しいからいい。そして、見ているだけならコミュニケーションはいらない。ほら、逃げてるんだやっぱり。





ベンチの少し手前に転がっている枝に目をとめる。この間真選組にお掃除に行った時の総悟とのやり取りを思い出す。あの時も苦なくコミュニケーション出来ていたかもしれないなぁとふと思った。なんでだろう…?
神楽と総悟はちょっと似ている…のかな?。どこが?神楽は女の子で総悟は男の子で、神楽は一緒にいて楽で、総悟とは苦なくコミュニケーションがとれて、でも銀時の優しさにはちょっと居心地の悪さを感じて…何が違って何が同じ?疑問は疑問を呼んで連鎖は止まらない。思考を断ち切った。
立ち上がって枝を拾う。地面に突き立ててみた。何か書いてみよう…。何を書こう…。


"バイト"


書き出されたのはそんな文字だった。最近気になっていること。万事屋は収入が少なすぎる。あんな状況でよくあたしまで居候させてくれたものだ。働いて恩返ししたいと思う。けれどもそれには障害も多い。接客はまず不可能だろう。誰かとコミュニケーションを取らなくてはいけないものは無理だ。雑用なら出来るだろうか…?そんな考え事をしていれば、


「バイト探してるんですかィ?」


すぐ隣から聞こえてきた声に肩が跳ねた。


「お、いい反応」


見たらニヤリと笑う総悟がいつの間にか隣に座っていた。気配に気付かないなんて、あたしにしてはおかしい。よっぽど気配を消すのが上手なんだ。


「ウチの女中なんてどうですかねィ?」


何のことか分からずにいると、バイトのことだと溜め息をはかれて少し落ち込んだ。それくらい察せられる人間になりたいものだ。あたしは持っていた枝で文字を書く。


"何するの?"


すると総悟は少し考えて、


「簡単に言えば俺のパシりでさァ」


そう言った。パシリ…。


"会話いらない?"


そう書いたら総悟は不思議そうに首を傾げた。


「会話…?」


あたしが頷くと、


「別に喋れないこと知ってて誘ってんだから問題ありやせんよ」


そう言った。
微かに浮かんでいる笑顔が優しくて、嬉しい。


"銀時さんに相談してみる"


そう書いたら、唸る総悟。


「旦那は賛成しないかもしれないねィ」


確かに銀時と真選組の人たち、特に土方とはあまり仲がよろしくないようだ。承諾してもらうには時間がかかるかもしれない。でも、あたしが喋れないことを分かって誘ってくれた。こんな良い話はなかなかないだろう。


「もし本当にウチでバイトしたいんなら、俺も一緒に旦那んとこ行きやすよ」


そんな親切な申し出、今まであまり経験のないあたしはどう対応していいのか分からない。


"ありがとう"


とりあえずそう書いてみた。


「まだ承諾もらったわけじゃないだろィ」


そしたらそう笑って言ってくれたから、どうやらこの返答は正解だったようだ。良かった。


「ああ!!お前ぇ!!いつの間に夢玻に手ェ出してるアルカー!!」


神楽の叫びが聞こえて、総悟の溜め息も聞こえる。


「世の中邪魔するヤツばっかで嫌になるねィ」


その後すぐに乱闘という名の戯れ合いが始まった。それを眺める。今回は定春も交ざって二人と一匹の戯れ。


帰ったら、銀時に相談してみようと思う。出来たら真選組でバイトしたいと。
パシリでも、総悟のだったら別にいいだろう。悪い人じゃないし。

どうやって銀時を説得するか考える。こんなふうに自分の願望のために脳を働かせるのは久しぶりだ。


「死ねドS!!」

「消えろチャイナ!!」


二人を眺めて一つ気付く。
神楽と総悟が一緒にいて楽な理由。二人共言葉と心が常に一致しているのだ。人は表情と言葉で会話する。でも、その表情は偽りかもしれない、言葉には嘘が含まれているかもしれない。二人は表情、言葉、心が常に一致している気がした。心のままに動いているように思えた。


中身を探る必要がない…


それが楽なんだ…と。


じゃあ、


銀時や新八は…?


あたしは考える。
新八は根っから優しいのだと思う。常にあたしに気を配ってくれる。単にあたしがその優しさに慣れていないだけかもしれない。そんなに気を使ってもらったことがないから。

だけど銀時はよく分からない。あたしは、自分で言うのもなんだが、人の心の内をよむのは得意だと思う。言葉の嘘はだいたい読み取れる。だけど銀時はそれが上手くいかない時がある。いつもではない。だいたいは分かるのだけれど、たまに分からない。何を考えているのか、本当は何を思っているのか…。銀時が偽りの優しさを演じていると思うのではない。銀時は優しい人だ。それはよく分かる。だけど、心の奥底が分からない。白くモヤモヤしている。なんて表現すればいいのだろう。


何ていうか、


あたし以上に


あたしのことを理解している


そして、今のあたしに必要なことは何かを考えている…


だけど、何を考えているのかは読み取れない…





銀時も人の内面を見るのが得意な人だと思う。あたし以上に人を見ている。そして銀時は、同じように自分からも目を逸さない。自分を理解しているのだ。
だから読み取れない。自分のことを本当に理解している人なんて、少数だろう。他人に流され振り回され、本当の自分を見失っていく…それが人。
あたしがあたしのことを芯から理解しない限り、銀時の内側はモヤモヤしたままなのだろう。あたしがきちんと自分を見ないかぎりは…。

銀時といると、まるですべてを見透かされたよう。あたしの知らないあたしまで見られているようだ。だから居心地が悪い。相手の内を探るのは得意でも、探られるのは苦手だ。


「もう!!お前ウザいアル!!早くどっか行けヨ!!」

「ウザいのはてめーの方でィ!」

「お前ヨ!!あたしたちの散歩を邪魔しに来たアル!!」

「お前こそ俺たちのトークタイムを邪魔しただろィ!!」

「違うヨ!あたしはただ夢玻を汚らわしいドS野郎から守っただけネ!!!」


喧騒を遠くに聞く。





╋ステップは臆病に╋

踏み出せば変わる未来があるかもしれない





20090819白椿

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