最初から親しくなろうとは思ってないよーな、壁を作られているよーな…
もっと心を開いてくれても良さそうなものなのに…
こっちはもっと距離を縮めたいと思ってるんだ…



歌声をさがして
第五話



この世界に馴染むにあたって、まず問題になったのが服装だった。着物なんて持っていない。銀時たちは買いに行こうと言ってくれたが、そんな高価な物を買ってもらうわけにはいかないと、丁重に断った。別に多少世間から浮くのは気にしないし、世間に合わせたいとは思わなかったから。すると翌日、新八が綺麗な紫と桃色の着物を持ってきてくれた。菫の花と桜が控え目に散らばった二つの着物。新八のお姉さんの物で、もう着ないからくれるという。本当にいらない物なのか少し疑問に感じたが、有り難く頂くことにした。着付けは幸い何度かやったことがあったのて、うろ覚えながらも形にはなった。多少動き辛いが慣れるまでの辛抱だろう。

そうこうするうち、万事屋にお世話になって三日が過ぎた。だんだんこの世界のことを理解していく。万事屋のことも分かってきた。
万事屋…それは基本暇でやることがない職業。
依頼があるまでは何もしない。というかやることが無い。こんなんでどうやって生計を立てているのだろう…。ソファに寝転んでジャンプを読みふけっている銀時と、酢コンブを咥えながら貞治と戯れている神楽。職無しとなんら変わりないように思える。


「夢玻ちゃんどーかした?」


銀時のやる気ない声がして神楽が振り向くのが分かった。あたしは首を左右に振る。見てないようで見ているこの男。


…何か居づらいなぁ


特にやることがない。
家事が一段落すると途端に暇になってしまう。だから余計なことを考えたり、今みたいにぼーっとしてしまったりするのだ。喋れないんじゃ、バイトも出来ないし、おつかいだって一人じゃ心配をかける始末。新八くんと買い物に行けば良かったかなぁ…
あたしはノートを開いて、隅っこに落書きを始めた。何となしに定春を一匹書き終えた頃、


「夢玻ちゃんさぁ…」


見ると銀時がいつの間にか起き上がって、ジャンプ越しにこっちを見ていた。


「もしかして俺達のこと他人だぁとか思ってない?」


…?


あたしは少し考えて、遠慮がちに首を左右に振る。


「じゃあ俺は夢玻ちゃんにとって何ですか?」


あたしは首をひねった。

唐突な質問だ…。


…銀さんはあたしの…


ノートの真ん中に大きくも小さくもない字で書く。


"恩人"


それを見せると、銀時は無表情のままで、


「そんだけ?」


と言った。
他にも?とあたしは思った。
さらに首をかしげて、


"雇主"


と書くと、それを見た銀時は「んーーー…」と唸った。神楽が横から覗き込む。


「まぁ、間違っちゃいないアル…んじゃあ、あたしは夢玻にとって何アルカ?」

"歌舞伎町の女王様"


それを見た神楽は、少し誇らしげに、嬉しそうに照れて頷いた。


「いやいやいやいや歌舞伎町の女王様ってなに?明らかに違うでしょ?」


神楽が銀時を一瞥する。


「うっせーヨ、夢玻は何も間違ってないアル!!」

「いや違ってるから!!」


銀時は、は〜っと盛大に溜め息を吐いて「まぁ、そうだなぁ〜」と何かを思案するように手をあごにやった。


「恩人であるかは別にして、確かに銀さんは夢玻ちゃんの雇主であるわけだけど、それよりも前にこう…一緒に生活してるわけね?」


あたしが頷くと銀時も頷いた。


「うん、だから……ちょっとソレ貸して」


そう言ってあたしからノートとシャーペンを受け取ると、机の真ん中に広げて何やら書き始める。


"他人 知人 友人 親友 それ以上"


「例えば、自分と相手との関係をこの五つに分けるとすると、夢玻ちゃんの言う恩人、雇主ってーのは、俺からすっとコレなのよ」


そう言って、銀時は知人をぐるぐると囲った。


「でもコレってなんかよそよそしいだろ?俺達は一緒に暮らしてるんだから…」


今度は友人のところを知人よりも大きな円で囲む。


「…せめてコレくらいに思っててほしいわけ」


あたしは首をかしげる。


…銀さんが友人?


今まで同年代の人でも、友人と呼べる人がいたのか怪しいのに、こんな年上の男の人を友人と考えるのは変な感じだ。


「まぁ銀さんとしては、友人なんて飛び越えて、家族ぅとか恋人ぉとか、夫婦ぅなんて思っててくれても全然かまわ「死ねヨ天パァー!」


ドスッ!!


「っぐはぁ!…」


神楽のグーパンが炸裂した。マッハのごときパンチは、あたしの目では追えなかった。銀時が腹を押えて腰を折る。


「くっ…じょ、冗談だってば…」

「キモいアル」

「おいおい!銀さんちょっと調子こいちゃっただけだから、ねぇもう言わないからやめてその戦闘体制!!」

「黙れ!天パのくせにうるさいアル!!」

「ちょっとぉおお!!何その理論!?まるで天パには喋る権利ないみたいな言い方やめてくれる!?全国の天パの人が可哀相だろがぁぁああ!!!」

「とぉっ!!」


ゴスッ!!


跳び蹴りが見事決まり、銀時は倒れて動かなくなった。こっちへ来てもう何回も見た光景なので、だんだん慣れてきてはいるけど、やっぱり少し心配になる。


「夢玻、こんな天パの言うこと気にしなくていいネ」


神楽は一仕事終えたような爽やかな笑顔で言って、あたしの隣に座った。そしてあたしをじっと見つめて口を開く。


「ただ、あたしは夢玻ともっともっと仲良くなりたいと思ってるアル」


…神楽ちゃん


「もっともっと一緒に遊びたいネ、だから歌舞伎町の女王もいいけど、いつかは親友か家族にして欲しいアル」


ぎゅっとあたしの腕に絡み付いて、家族だったら姉妹がいいなと楽しそうに語る。


…可愛いなぁ


あたしも、こんな妹がいたら毎日楽しそうだと思った。


「…お〜い…二人ともぉ、銀さん放置でなにイチャついてんですか…」


銀時がむくりと起き上がって、不機嫌そうに蹴られた腹を押える。かなり痛そうだ。あたしが様子を伺うように覗き込むと、「んー、大丈夫大丈夫…たぶん」と曖昧な返事が返ってきて、神楽には放っておけと言われた。


ガラガラッ


「行ってきましたぁ〜」


新八が買い物から帰ってきたようだ。大きなビニール袋を二つさげて、重たそうに入ってくる。神楽がその様子をしばらく見た後、ぱっとこちらを振り向いた。


「夢玻、新八は夢玻にとっての何アルカ?」


新八とあたしは目をパチクリさせる。


「お、そりゃ気になるね〜」


と銀時。


「神楽ちゃん、何の話?」


と新八が問えば、神楽はふん反り返った。


「あたしはこの歌舞伎町の女王アル!」

「は?」

「でもすぐに家族になるアル!」


あたしは噛み合わない会話に苦笑しながらシャーペンを取った。神楽と銀時が興味津津でノートを覗き込む。あたしは迷うことなくペンを走らせる。
"一番普通な人"


一番親しみやすそうで、優しさを感じた人だ。何よりこの世界で一番理解できる人。あたしは皆の反応を待つ。


「…夢玻ちゃん?それは暗に銀さんたちは普通じゃないって言いたいの?」


銀時の言葉に、あたしは曖昧な笑顔で誤魔化す。つまり、まぁ、そういうことだから…
そしたら神楽が声を上げた。


「違うヨ銀ちゃん、夢玻はただ単に新八は個性の無い面白くないヤツだって言いたいネ」

「ああ、なるほどね」

「…なんかそれ、地味に傷付くんですけど…いったい何の話ですか?」

「うっさい駄眼鏡、お前には関係ないアル」

「いや明らかに関係してるだろ!!教えて下さいよ!」


あたしは、違う違うと心では否定しつつも、思わずくすっと口許が緩んでしまった。





╋インターバルな話╋

本当に騒がしい人たちだ…









20081217

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