世の中いろんなことがあるさ。
そう、巨大生物に頭かじられたり、頭からキノコ生えたり、気付いたらマダオって呼ばれてたり…ね?
だからさ、これも、その世の中のいろんなことに含まれるんだろう…たぶん…それが異世界トリップだったとしても…



歌声をさがして
第四話



「異世界トリップって本当にあるアルナ」


神楽は酢コンブをかじりながら言った。


「いろんなことが起こる世の中ですからね」


新八は戸惑いがちに言った。


「…まぁよくある話なんじゃね?」


銀時は引きつった笑顔で言った。あたしは俯いて、不安と闘っていた。


…ごめんなさい


心の中で思った。こんな面倒事持ち込まれて、いくら万事屋って言っても迷惑きわまりない話だろう。早く出て行かなくちゃ。

"申し訳ないのですが、この世界のこと大まかでいいので教えて頂けませんか?"


最後に、


"そしたら出ていきます"


と付け加えて見せる。元の世界に戻る方法よりも、今をどう乗り切るかの方が問題だ。三人の様子を伺うと、真剣な表情の銀時を新八と神楽が見つめていた。やっぱり報酬とかいるのだろうかと心配になった時、


「んまぁ、しばらくウチにいれば良くね?」


銀時があまりにもサラッと言ったから、一瞬何を言ったのか分からなかった。


「そうですよ、歌舞伎町は女の子一人で彷徨うには危険ですしね」


新八が安心したように頷いている。


「分らないこと何でも聞くアルヨ」


神楽が楽しそうに笑う。


…なんて心の広い人たちなんだろう


思わず涙腺が緩みそうになった。

"報酬は?"


そう書くと、


「ん?そーだなぁ…」


と銀時は考え込んで、


「家事とか出来る?」


と言うので、頷いたらそれで良いと言ってくれた。何から何まで申し訳ない。


「それじゃ改めて、ようこそ万事屋へ」


そう笑顔で言ってくれた銀時や新八、神楽にお礼を言いたいのに言えないもどかしさ。


"ありがとうございます"


「どーいたしまして」


あたしは微笑みたかったのに、何故か顔が引きつって上手くいかなかった。笑うには、まだ不安が多すぎる。


…なんか疲れたなぁ


寝る場所はどこにするだとか、銀さんと寝るのだけは反対とか賛成とか、あたしが一緒に寝たいアルとか、騒がしい声がだんだん遠くなっていく。瞼が重い。体がソファに沈んでいく。やがて視界はブラックアウトした。


音楽が流れてる。
あたしは大きな口を開けて歌ってた。


『上手ね夢玻ちゃん』


その言葉が嬉しくてあたしは言うんだ。


『もう一回ひいて』


またピアノが音を奏でだす。
あたしはまた歌い始める。



柔らかくて温かい毛布の感触に埋もれながら目を開けると、見慣れない天井が見えた。起き上がると薄暗い静かな部屋。


ああ、そういえば…


昨日のことが一気に甦ってきた。まるで鉛を飲み込んだみたいに心がズシリと重くなる。このままじゃ気が滅入るだけだと思って、とりあえず外に出てみようと玄関に向かった。みんなを起こさないように慎重に戸を引く。まだ薄暗い外の空気は凜と澄んでいるように清々しい感じがした。遠くの方にうっすらとネオンの光が見えるが、周りは寝静まったおとなしい町並み。全部見慣れない風景だった。手すりを握って空を見ると、明るくなりかけた空に星が点々と瞬いている。これは知ってる景色だ。空は同じで良かった、なんて詩人みたいなことを思ってる自分がちょっと滑稽だ。


ガラガラ…


「寝れたか?」


振り向いたら、ノートとシャーペンを差し出してヘラッと笑う銀時がいた。受け取ると、隣へ来て同じように手すりにもたれかかる。あたしはノートを開いた。

"起こしてしまいましたか?"


「いや、厠ついでに夢玻ちゃんが出てくの偶然見ちゃっただけ」


何でもないように言う。だけど、分かるんだよ、厠なんて嘘だってこと。会話が出来なくなって、人と話さなくなって、あたしは随分と人の心の中を読むのが上手くなったと思う。


"ありがとうございます"


だから、気を遣ってくれてありがとうございます。銀時はそれを見て目をパチパチした。


「あれ?銀さん偶然って言ったよね?なんでお礼?」


あたしは笑顔で頷く。


「…」


きっと優しい人なんだ。

「…まぁなんだ…ちょっと話すか」


と頭を掻きながら言う。会話はあんま得意じゃないけど、少しだけなら…この人となら…


「夢玻ちゃん、なんか質問ない?」


って、ちょっと無理矢理っぽい話題がおかしくて笑える。あたしは少し考えて、ノートに書いた。


"この世界のこと教えて下さい"


「この世界?んー、そうだなぁ…まぁ一言で言えば、」


世界を一言で言い表すなんて凄いことだ。


「変なヤツが多い」


はは…
そうか変なヤツが多いのか…


銀時が語る、いろんな文化や宇宙人、幕府とか攘夷とか、あたしの常識では決して交わることのなかった物たちが詰め込まれた世界。それは目の前に広がっているで、あたしの世界は似ているようで全く違ってて、


「夢玻ちゃんの世界はどんななの?」


と聞かれたとき、

"ここに比べたら大分常識的で、病んだ世界"


と答えた。





╋銀色ランデブー╋

優しい人は苦労するんですよ…









20081220

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