貴方は世界を目指すのよ
みんなが期待しているのだから
分かるわね
お母さんの言う通りにしていれば、幸せになれるから
歌声を探して
第十五,五話─Side近藤
今回の式のプランは万事屋に頼んで正解だったと思った。少しずつではあるが、確実に華やかな結婚式会場へと変貌を遂げている会場を見て一安心する。少し驚いたことと言えば、今回のこの仕事が、どうやら夢玻ちゃんを中心にまわされているということか。初めて出会ったときに感じた印象とだいぶ違う働きぶりに一瞬目を丸くした。あの日、初めて出会ったとき、少なからず怯えられているように感じた。あまり、人に関わってほしくないような眼をしているなと思ったのだ。おどおどと、びくびくと。それが会わない数日の間に何かあったのだろうか。楽しそうに万事屋メンバーに囲まれている姿を見るに、やはりあの男の仕業なのだろうなぁと勝手に推測する。
「夢玻さん、この花どこに置いておけばいいですか?」
「夢玻ーこっちセッティング終わったアル」
喋れない彼女は当然身振り手振りで支持を出すのだが、これには万事屋のチームワークを見せつけられている気分だった。てきぱきと動く。様子を見に来たトシと総悟も多少呆気にとられてこの状況を見ていた。
「こりゃ全く心配する必要無かったですねィ」
「…だな」
その言葉に笑ってしまう。確かにと。
それにしても、手際が良いだけじゃない。夢玻ちゃんがさっきから手掛けている会場内の花のセッティング。知識はないが、あれは専門的に勉強してきた業ではないだろうか。主張しすぎず、でも貧相でもなく、ほどよく会場を彩っていく花たち。花を扱う彼女の目は真剣だった。そんな中、
「あ、そう言えば銀ちゃん、ピアノどうするアルカ?」
そんな声が響いた。
「ああ?そういやそっちのこと考えてなかったなぁ、」
「新郎新婦が入ってくる時に無音って寂しいですよね」
「CD流しとけば良くね?」
「ダメアル。あのお嫁さん生の演奏希望してたアル」
「でも、今まででもう予算ギリギリですよ、演奏者への依頼料がいくらかかるか」
そんな会話を聞いていた夢玻ちゃんが、少し考えるような顔をして、ノートに文字を綴った。それを万事屋3人が覗きに集まる。そして、
「ええっ!! 夢玻ピアノ弾けるアルカ!!!」
そんな声があがった。
「すごいアル!!弾いてみてヨ!!」
そんなふうにお願いされて、ちょっと困ったように笑うとグランドピアノの方へと歩み寄る。チャイナの娘もそれに続いた。ピアノは会場にもともと設置されていたもので、それなりに良いものと聞く。そこの椅子に腰かけておもむろに鍵盤に手をかける彼女を、何となくぼーっと眺めた。
しかし次の瞬間目が冴える。
響き渡るいくつもの音
耳を通り抜けて直接脳内に響き渡るような、
世界が広がるような
それはよく聞く新郎新婦が登場する時のあの曲だった。生の演奏は迫力があると驚く。これも、専門的に勉強しての業ではないだろうか…?何でもないようにスラスラ弾く彼女を、どこか理解できないまま見つめた。
それは、トシも総悟も、そして万事屋に新八くんも同じなようで、新八くんがポツリと、
「ねぇ、銀さん、すごくないですか」
そう零すと、万事屋が目をぱちぱちさせながら頷く。
「…すげぇな」
「夢玻さんて、実は僕たちの中で一番有望ですよね…」
「…才能の塊だ」
「…後で何が出来るのか聞き出しときましょ」
「そだな」
「…軽くショックです」
「そだな」
やっぱり彼女はまだ万事屋に入ってまだ間もないらしい。万事屋と新八くんの反応に苦笑しつつ、彼女は確かに有望そうだと笑った。ピアノを弾く姿に目を向ける。その顔が今まで見たことないくらい楽しそうにほころんでいたのを見逃さなかった。
╋とあるゴリラな局長の見解T╋
才能の塊…か
どこか、彼女の生い立ちに響く言葉ではないかと、そう感じたのは…
20100201白椿
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