まだまだ時間が足りない。全然彼女のことなんて知らないんだ…って落ち込んでいる暇があったら、知る努力をすればいいだけで…
歌声を探して
第十五話
ある日、真選組から依頼が入った。それは結婚式のプランナーをしてほしいというものだった。なんでも、幕府のお偉いさんとある惑星の王女さまの婚約が決まったらしいのだ。どうしてそんな大事な式なのに専門のプランナーに頼まないのかと訊けば、今は結婚を決めるカップルの多い時期らしく、どこもスケジュールがいっぱいで頼むとなると値段が半端ないらしい。だから、ここ万事屋にそこそこの値段でお願いできないか…と。しかし、一惑星の王女の結婚式ともなればそれなりの予算を期待出来そうなものなのに、そう言えば、物価の違いからだという答えが返ってきた。
「と、いうわけでよろしく頼むな万事屋」
土方はそう言って万事屋を出て行こうとする。総悟もそれに続く。
「そんじゃまた来やすんで」
残された銀時、神楽、新八、あたし。万事屋にはうーんという唸り声が響いていた。報酬はそれなりだ。この仕事をしなければ今月の生活費も危うい。何とかやりとげたいのだが、
「つってもよぉ、俺たち誰も結婚式なんて挙げたことねぇし」
「かってが分かりませんよね」
そういうわけで何から手を付ければいいのやらという状況。でも、あたしはそんなに心配に思ってなくて、何故なら、
“わたし、結婚式何回か出たことあります”
そうやってノートに記せば、
「マジアルカ!!」
「夢玻ちゃんホント!!?」
飛びついてきた銀時と神楽に少し驚きながらも頷いた。
「いいなぁ、わたしも結婚式出てみたいアル。わたしたちも一回は結婚式見に行ったことあるアルけど、その時はゴリラとゴリラの式ぶっ壊すのが目的だったアル、ぶっ壊すこととバナナのことしか記憶に残ってないのヨ!!」
「ああ、近藤さんの…」
「そうなんだよなぁ、ありゃ結婚式に参加したことにはならねぇよな…」
よく分からないけどとりあえず頷いて、
“式の構成はだいたい分かる。あと、フラワーアレンジメントなら出来ますよ”
そうノートに記すと、三人が拍手を始めた。
「いやぁやっぱ持つべきは夢玻ちゃんだよね」
肩をすくめる。あんま期待はされたくないのだが、ここはそんなことも言っていられない。もしかしたら、初めて万事屋として銀時たちの役に立てるかもしれないのだから。
小さい頃から習い事はたくさんしてきた。着物の着付け、茶道、華道、書道、料理、基本的な勉強も、水泳や体操なんかも。そして、ピアノと歌。他にもいろいろやらされた。そんなこんなで付き合いだけは広かったあたしはいろんな人の結婚式に呼ばれたのだ。どこもそれなりに由緒ある習い場だっただけにお金持ちたちの結婚式にばかり出席していた。習い事は全部楽しかったけれど、特にお気に入りは華道と歌だった。途中からピアノ一本になってしまったのだけど、それでも歌と華道は好きで、独学で勉強していたし、華道にいたっては趣味としてアレンジメントの集まりに参加していた。少し専門的なことを勉強すれば形にする自信はある。
「で、夢玻さん、まず僕たちは何をすればいいですかね?」
新八にそう質問されて、文字をノートに書きだす。
あたしも専門的な知識があるわけじゃないけど、とりあえずその式の主人公である新郎新婦にどんな式にしたいかを聞くべきだろう。その後会場の下見とか、出席する人数の確認とか、だからまず、今さっき帰ってしまったばかりの真選組の皆さんの所に行かなくちゃ。予算の話はさっき聞いたから、そこからどこにどれだけお金をかけるか決めて、
と、そんなことをノートにずらずら書いていけば、三人はそれを黙って読んで、
「おっし、そんじゃアイツらんとこに行くか」
銀さんが立ちあがる。そして、
「なんか出来そうな気がしてきましたね」
「そうアルナ!!」
二人も立ち上がる。最後にあたしも立ち上がって、4人で万事屋の戸を出た。意気揚々と歩き出そうとしたのだが、
「銀時、いいところに出てきたな」
そんな声に振り向くと、黒く長い髪をなびかせた顔立ちの良い男の人と、巨大な白いペンギンみたいのが立っていた。ちょっとビックリしたけど、きっと天人なのだろうと思って心を落ち着かせる。
「あ、桂さんこんにちは」
「よぉヅラ、俺たちこれから仕事だから、お前にかまってる暇ないから」
「ヅラじゃない桂だ、ん?」
どうやら銀時の知り合いらしい桂と名乗ったその人はこっちを見て首を傾げる。
「はて、見慣れぬ顔がいるようだが」
「新人アル、夢玻ネ」
神楽が代わりに名前を言ってくれて、あたしは頭を下げた。
「はじめましてだな夢玻殿。俺は桂小太郎、こっちはエリザベス」
見たらエリザベスと紹介された白いペンギンは、なにやら
“よろしく”
と大きく書かれたプラカードを持っていた。目をパチクリ。その後新八が例によってあたしの事情を説明する。すると、
「そうか、だが案ずるな、俺は筆談には慣れているからな」
そう言えばエリザベスがプラカードを掲げる。
“夢玻、仲間だな”
や、やっぱり…!!
あたしは少しドキドキする胸を落ち着ける。エリザベスも筆談仲間…!!なんだか嬉しくて大きく二回頷いた。
「はぁ、そんじゃお前らそろそろ行くぞ」
銀時が面倒そうに溜息して言う。本当はもう少しエリザベスと話してみたいと思ったのだが、今から仕事だから仕方ないと諦める。すると桂が呼びとめる。
「では夢玻殿、今度またゆっくり話すとしよう」
あたしは頷いた。
“今度ウチに来い”
エリザベスのプラカードにまた頷く。初めて出会う筆談仲間。すごい、なんだか久しぶりにワクワクする。
少し名残惜しく感じながら、あたしは銀時たちを追いかけた。
その後真選組に向かいながら銀時が桂について教えてくれた。そしてあたしはちょっと驚く。攘夷浪士。真選組の敵。土方や総悟の敵だとか。で、でも悪い人には見えなかったけどなぁと。
「あ?別に悪い奴じゃねーよ?面倒くさいだけで」
そう言う銀時。じゃあ、敵というのは立場上ってことで理解しておけばいいのかな…?何にしても、一回会いに行ってみようと、そう思う。
╋お友達エリザベス╋
可愛い仲間
20100131白椿
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