あたしの特技はピアノを弾くことです。あたしが大好きなことは歌うことです。先生が弾くピアノに合わせて歌うのが大好きです。

でも、

もう歌えなくなってしまいました。

なぜなら…





歌声を探して
第十四,五話─Side総悟





夢玻という人間は今まで俺が出会った中では初めて出会う種類だった。すごくいじりたくなるタイプなのに思うようにいじれない。いじるとどんどん離れていってしまう。今まで出会ってきた奴らはいじれば面白い反応を返してくる者たちばかりだったから、あんな怯えたような瞳をされたら困ってしまう。


「やっぱ嫌われてるのかねィ」


ともすれば考えて行きつく答えはこれしかない。でも、そんな嫌われるようなことをした覚えはない。むしろ、俺からしたらかなり気を使ってたつもりなのだが。
別に女一人に嫌われたってどうってことないのだが、理由もなく嫌われるのはすっきりしない。それに、あんな頑なに距離をおかれては、ベタベタに懐かせてみたくなるのも事実で、


「…ん?」


そんな時、通りがかったコンビニのガラス越しに、まさに今考えていた彼女を発見して足を止める。隣には旦那の姿。仲睦まじく二人で一つの雑誌を覗きこむ姿を見れば、多少面白くないと思ってしまう。
少し迷ったけれど、コンビニの自動ドアの方へ歩を進めた。そのまま迷わず二人の傍に行くけれど、二人とも俺が来たことに気づかず…いや、旦那は気づいてるか。


「お二人仲のよろしいことで」


声をかければ夢玻がビクっとした後振り向いた。旦那は面倒そうにこっちを見た。


「こんちわ」

「なぁに沖田くん、今デート中なの邪魔しないでくれる?」


デートという言葉をあえて無視して夢玻に笑顔を向けた。


「夢玻久しぶりですねィ」


言えばすぐに頭を下げた。なんと堅苦しい挨拶だこと。
二人が見ていたのはジャンプ。夢玻のキャラからして意外なものだったので少し新鮮な気持ちだ。しかし彼女はやはりおどおどした様子。さっき旦那と二人だったときに比べて緊張しているようでもある。


…人と接するのが苦手


なんだろう。まぁ、喋れないということも手伝ってだろうけど。それにしたって旦那にはそれなりに心を許しているようなのだから、誰でも頑なに拒むわけではないのだろう。でも、夢玻は万事屋に住み込みで働いているようだし、旦那とは生活を共にしているわけで、旦那との進展の方が大きいに決まっている。俺に懐かせるには、時間がかかりそうだ。


「さ、んじゃそろそろ会計行くか」


その邪魔をするかのごとく会計に向かう旦那、それにちょこちょこ付いていく夢玻。本当に少しだけだけど、今の旦那の状況に羨ましさを覚える。そんなに俺は夢玻を懐かせたいのか…
もんもんとした気持ちが膨らんでいく。
といきなり、ふわりと、旦那を追いかけていた彼女が振り向いた。少しだけ不安に揺れる二つの瞳が俺を捉え、それを見た俺は思わず心で苦笑する。


…嫌っているわけじゃないの


そんなふうに言われた気がしたのだ。
やっぱり、彼女は初めて会うタイプの人間だ。
そんな彼女に手を振ってみる。


「んじゃまた今度」


そしたら、ぎこちない笑顔と共に小さく振られた彼女の手。思わずほころぶ自分の顔を意図的な笑顔に変える。このやり取りに気づいていない様子の旦那を見て、なんだか優越感を覚えた。

もう少し待ってみて。いつか君が困らない方法見つけてみるから。





╋とあるドS王子の見解T╋

まだまだ時間が足りないね





20100128白椿

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