あんたの存在価値は失われたも同然なのよ。
お母さんはそう言って、あたしに背を向けた。





歌声を探して
第十二,五話─Side銀時





どこか雰囲気が違うとは思っていた。今まで出会ってきた奴等と同じように接していては、彼女の心が開けないことも直感で分かっていた。その気遣いが裏目に出てしまったのかもしれない。最近彼女は、心を開くどころかさらに閉ざしていっている気がする。


「いちご牛乳いちご牛乳」


俺が持つと言ったのに首を縦に振らない夢玻が持つカゴに、1リットルの紙パックいちご牛乳をそっと入れた。


「重くね?」


首を横に振る。
頭をポリポリ掻いて試案していれば、不安そうな瞳がこちらを見ている。

また、だ。
今、俺が何を考えているのか探っている。


「銀さん、ありましたよ」


新八が豆腐を持ってきた。


「おうサンキュー、神楽は?」

「酢昆布探しに行ったっきりですね」

「…またか」

「夢玻さん、僕が持ちますよ」


また笑顔で首を横に振っていた。今まで嫌だと言ったって荷物押し付けてくるような女としか関わりがなかったためか、どうにもこういう空気に違和感がある。


「夢玻ちゃんは欲しいもんねーの?」


何となしに訪ねたら目を見開いてこちらを見る。少ししてから視線を下に落として首を横に振った。きちんと笑顔を装って。


「まぁまぁそー言わず。お菓子でも何でもいいから選んで来いって」


そう言って、夢玻の持つカゴを掴むと、一瞬彼女の腕に力がこもった。カゴを手放さまいとするように。


「ん?」


しかしすぐにビックリしたようにカゴを手放して、申し訳なさそうにこちらを見た。


「なに?もしかして夢玻ちゃんてカゴLoveなわけ?」


からかい交じりに言ったら首をブンブン振った。いや、ここはパンチの一つくれてもいいんだけどね?


「じゃあ銀さんが持ってっから、夢玻ちゃんは欲しいもん探してきなさい」


笑顔で言っても、夢玻は困ったように眉を下げてその場に立ち尽くす。新八が心配そうに夢玻の顔を覗き込んだ時、彼女の腕が俺の持つカゴに伸びて、


「ん?いやいやカゴは銀さんが…」


夢玻の顔を見て言葉を止めた。彼女の瞳が訴えてくる。


─あたしの役目を、奪わないで…─


思わずカゴを手放した。夢玻がそれをしっかり持つ。


そんなつもりじゃ、なかったんだけど…な


カゴを持った彼女はそこから動こうとしない。欲しいものはないのだろうか…。


「酢昆布あったヨー」

「誰も探してねーっつの」


神楽が腕いっぱいに抱えた酢昆布を遠慮なくカゴに放り込む。さらに重くなったカゴ。夢玻は顔色一つ変えずに持っていた。
俺は溜め息して、


「んじゃ会計行くぞ」


そう言う。その時、少しだけ夢玻の顔に安堵の色が宿ったのを見逃さなかった。


気遣われるのが、嫌なのだろうか…


帰り道、各々に買い物袋を持って歩く。夢玻は俺たちより数歩後ろをゆっくり歩いている。空を見たり地面を見たり…いろんな所を観察しながら歩いていて、でもその視線が俺たちに向けられることはない。


興味の対象ではない…てことか


俺たちがいくら歩み寄ったって、彼女がその分遠のけば距離は変わらない。また、こちらが距離を縮めたいと思っていても、彼女がそれを望まないのなら距離は変わらない。むしろ、こちらの行動は迷惑以外の何でもないわけで。


「今日は良い天気アルナ」

「そうだね」


ただ、俺たちの会話にはきちんと意識を向けているらしく、空の話をすれば空を見る。何か面白いことを言えば微かだが微笑む。そうやって、夢玻はきちんと俺たちとコミュニケーションしていているわけで、


「夢玻ちゃん」


だから、決して嫌われているわけではないだろうと思い込むことにする。

歩むペースを落として、彼女の隣へ。夢玻は案の定ビクリとして不安そうにこちらを見た。
彼女にかけるべき言葉が何なのか…

"晩飯何か食いたいもんあるか?"


いや、違う…

"今日は何作るんだ?"


いや、まだ少し違う…


俺は彼女の瞳を見て言葉を放つ。


「今日はカレー食いたいなぁ」


そう言えば、目をパチクリした後に笑って頷く。その笑顔に曇りがないことを確認した。

よし、会話成功。

どうも俺は接し方を間違っていたようだ。彼女には、まだ意見を求めてはいけないようである。


「今日カレーアルカ!!きゃっほーーい!!」


夢玻の笑顔が深くなった。少しだけ、彼女とのコミュニケーションの仕方を理解したように思う。





╋とある天然パーマの見解T╋

つまり、君は…





20091130白椿

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