心の内を聞き出すのは難しいことだ。本人に話す気がなければ無理に訊かない方がいいかもしれない。だけど話してくれなきゃ分からない。
君は分かってほしいなんて思っていないのだろうけどね。





歌声を探して
第十二話





最近、一人の時間が減って、あたしは自分から一人になる時間をつくろうと試みていたのだが、改めて気づく、一人の怖さ。いや、今は一人ってわけじゃない。ソファには銀時がいて、新八は料理をしていて、神楽は定春とお昼寝している。だけどなんでだろう…一人でいるみたい…なんで?


―無力だね―


聞こえてくる声。いつものことだけど慣れない。それは過去に響いた音たち。
だけど、久しぶりに聞いた気がしたのは気のせいじゃないだろう。最近聞いていなかったのは、いつも周りに人がいると思っていたから…いつも周りに人がいる?あれ?どういうこと?。


―君一人じゃなにもできないんだね―


突然響き出した声に驚いて硬直した。持っていた洗濯かごを落としそうになって慌てて握りしめる。
声たちは、どれもこれも図星で言い返せなくて、実際自分ってそんな何の価値もない、むしろ邪魔な存在だという認識があるから、もう何言われたって平気なはずなのに、やっぱり人の声って力があるのだ。

突然響いてくる無機質な機械的な音。ううん、幾重にも重なった音たち。それはあたしの語りかけてくる。いや、実際に聞こえているのではない。脳内でリピートされる過去の音が現実を提示してくるのだ。


―何もできないことを無力って言うんだよ―


頭が声で満たされていくと泣きたくなる。叫びたくなる。でも、泣き声も叫び声も出ない。なんて無力なのだろう。その言葉たちすべてを心で受け止めて、発散のさせ方が分からない。だけど溜め込むことに慣れているのか、それとも吐き出すことを諦めたのか、


「何かあったら言えよー」


その時何を察したか銀時にそう言われて頭をクシャリとされたとき、鼻で笑ってしまった。

何を言っているのだこの人は…と。

言えよって、あたし喋れないの知って言ってんのか…言ったところで解決できるのかと。だけどそんなことを思った自分が少し悲しくなった。それが、泥だらけのあたしを拾ってくれた人に抱く感情なのかと。
だから面倒だ。人付き合いというものは。深く関われば関わるほど悩む数が増えて行く。傷つく数が増えていく。


「なーに笑ってんだ」


急いで首を振った。何でもないよ何でもない。そしてすぐに傍を離れた。
人と接するって面倒なのよ。だけど、最近のあたし、何か変。自ら面倒なことしようとしてる気がする。バイト始めたいなんて…ね。だけど誘ってもらったからには一生懸命やらなくちゃって思う。真選組のこともそう。だけど自分の位置をきちんとわきまえなきゃ。これ以上面倒なことはしない。
バイトは銀時のために。あたしを拾ってくれた銀時のため。そして彼らには必要以上の迷惑をかけない。いや、居候している時点でかなり迷惑をかけているのだ。

銀時たちがいつも自分に気を使っているような気がする?…自惚れるな、ただ迷惑な存在をどう扱おうか考えているだけだ。

総悟が散歩に誘ってくれるけれど、行っていいのか悪いのか分からない?…勘違いするな、決してお前を取り合っているわけじゃない。

お登勢がバイトに誘ってくれた?…年長者として年下の面倒を見るのは当たり前。そんなもの周りへの体裁を気にしてだ。

最近勘違いしていたことを、声が教えてくれる。


―無力―


そう。あたしは他人に迷惑をかけずには生きていけない存在。思いあがるな。

身体が成長するにつれて見えてくる現実。汚い世界と儚い夢。自分が大したことない人物だと分かった瞬間。挫折。成功者へ向ける嫉妬の眼差し。夢見る子供を見守る立場に変わっていく。追い越される立場になっていく。
受け入れてもらえないことへの慣れ。悲観的になることが常。ポジティブは異常。そうして生まれるつまらない自分。

夢見ることが難しいと知った。普通に生きることが、実は難易度高いことなんだと知ったあの日。そこから聞こえるようになった声。常に一緒にいた声。うるさい存在の声。あたしが失った声。過去に胸を貫いた鋭い言葉たちが、今あたしに教えてくれる。もう随分前に理解していたはずなのに!!


―お前は決して人に愛されることはないだろうよ―


分かっているよ。
例えば銀時が居候させてくれたとか、神楽が散歩に誘ってくれたとか、新八がお茶を淹れてくれたとか…それはすべて彼らが良い人だからで、あたしが好きだからではないと。分かっているともさ。いつも皆が傍にいてくれたって、あたしという存在はやっかいなモノ以外の何物でもないのだ。常にあたしは一つの浮いた存在。
何を今さら…。
バイトが決まる前に気づくべきだったかもな。誘ってくれたことへの喜びが大きすぎて見えなくなっていたのかも。じゃあ何で今さらそんなこと考えてるの?あたしの脳って不思議だわ。たまには一人になって声に耳を傾けた方がいいのかもしれない。でないと馬鹿なあたしは勘違いしてしまうようだ。


―無力無力無力無力無力無力無力無力無力無力無力無力無力無力無力無力無力無力無力無力無力無力無力無力無力無力無力無力無力無力無力無力無力無力無力無力無力無力無力無力無力無力無力無力無力…


万事屋を出て一人声を聞く。今まで嫌いだった声なのに…落ち着くのは何故だろうか。あたしは傷つくことに慣れすぎたのだろうか。傷ついてる自分に酔っているのだろうか。
分からないけれど、あのまま銀時の生ぬるい優しさに浸っているよりよっぽどいいような気がした。




╋ネガティブが門を叩く╋

夢の見すぎにはご用心





20091128白椿

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