夢玻が万事屋に居る時間がどんどん少なくなっていく。
何に気を使っているのだろうか…。彼女は今だに俺たちにことを他人と割り切っている。どうしてそこまで頑なに心を開こうとしないのだろ。





歌声を探して
第十一話





それから、暗くなってからの数時間、スナックお登勢でのバイトを始めた。接客は無理なので主に掃除や荷物運び。それでも誰かの役にたってると思ったらやり甲斐はある。たまにいろいろ教えてもらって働いていた。まだどちらかと言えば足手まといだけど、いつか気の回る一人の店員となれたらいいなと思う。

そして、バイト以外でもスナックお登勢にはよく足を運ぶようになった。
別に食事を期待してではない。行って特になにをするでもない。昼間はあまりお客さんがいないから、ただお登勢やキャサリン、たまの会話を聞いているだけ。なんとなく居心地がいいからけっこう長居する。バイトの件で多少なりとも銀時たちに罪悪感を持たせてしまったことに、あたし自身が罪悪感を抱いてしまって、いまや万事屋はとても居ずらい場所になってしまっているという事実もある。銀時を謝らせてしまったことが申し訳なくて、情けなくて。たぶん被害妄想にも似たものなんだろうけど、いつどんなときも皆があたしに気を使っているような気がしてならない。みんなの目線が気になって仕方ないのである。


「何か食べるかい?」


お登勢の問いかけに首を振る。ただここにいたいだけなのだ。


「バイトはどうだい?もうだいぶ慣れたかい?」


それに頷いた。


「そうかい」


こうやってぐだぐだと時間だけが過ぎていく。あたしって、本当に人付き合いが苦手なのね。一人のが好き。ううん、ずっと一人でいるのは寂しいけど、ずっと誰かといるよりはいい。寂しい人間だなと思う。
今日も万事屋は暇なようだ。銀時はソファでジャンプを読んでいたし、神楽は定春と戯れていて、新八はテレビを見ながらお茶を啜っていた。せめて何かしていてくれたら、あそこも多少は居心地いいのにな…と。だけど、そんなこと言えるわけはないし、言っていい身分でもない。もっと自分から彼らとの距離を縮めたれたら良いのだけど、そんな欲も行動力もなければ、やり方も分からない。この生きてきた17年間で、あたしが学んだ人付き合いの仕方は驚くほど少ない。また幼稚園からやり直したいくらいだ。


「真選組の方はどうなったんだい?」


その質問に溜息した。
あれからたまに総悟が訪れるようになったのだけど、これがまた何とも。別に仕事の依頼で来るわけではないのだ。ただお茶を飲みに来るのである。サボりらしい。その度に銀時は溜息、神楽は暴言、新八はお茶を啜って、あたしはソファの隅に座ってじっとしているしかなくて。総悟は散歩に誘ってくれたりもするのだが、なんだか銀時の機嫌が気になって行くわけにもいかず。すべてが初めてのことで、散歩に誘われることも、ましてや男の子に誘われることも、こんなにぐだぐだしていることも、だからベストな選択が何なのか分からなくて考えることばかりで、毎日が疲れる。バイトのことも、そういう付き合いのことも自分から起こした行動に原因があるというのに…情けない。あんなに優しい銀時を避けるようなことばかりしている気がして情けない。誘ってくれる皆の気持ちを足蹴にしているようで情けない。


「まぁ、それも必要なことさね」


考えること、人とコミュニケーションを取ることも大事な勉強だとお登勢は言う。確かにそうだ。勉強だと思えば少しはストレスも軽減されるのかな。

勉強…

そういえば、もう暫く勉強というものをしていない。この世界に来てから全くだ。大丈夫だろうか…あたしの頭。学校では今何の勉強をしているのだろう…。きっとだいぶ進んでしまっている。このままだと、元の世界に戻ったときに大変だろうなぁとぼんやり考えた。いや、戻り方は分からないのだけど…。
そうだ、バイト代が出たら少し勉強道具を買おう。問題集みたいなのでもいい。独学で勉強していこうか。そしたら万事屋でもやる事に困らなくなる。うん、そうしよう。


「お登勢さーん、夢玻さん来てますかー」


新八の呼ぶ声と同時に店の戸が開く。


「あ、夢玻さん、そろそろお昼にしませんか?」


笑顔を作って一つ頷く。本当はまだこっちに居たい気がするけど、そんな気持ち振りはらうように重たい腰を上げた。

息苦しい着物の帯に溜息しながら店を出る。




╋ルーズな時間に癒しを乞う╋

普通の人なら喜ぶ誘いも、あたしにとってはストレスなの




20091128白椿

- 11 -


[*前] | [次#]