いつも人のことを思っていられるわけがない。だけど、自分のことは思っていてあげなくちゃ。それは自分勝手とかじゃなくて、少しは自分を認めてあげようということ。




歌声を探して
第十話





「そりゃまた銀時も過保護なもんだね」


お登勢は呆れながら言った。
それにあたしは首を傾げる。お登勢もまるで銀時があたしを大切にしているみたいに言うけれど、それはどうしてだろうか…?全然違う。銀時とあたしはまだ出会って間もない。ただの主人と居候の関係で、そんな大切に思ってもらえるほどのエピソードなんてまだ生まれてない。あたしはただ、面倒を見なければならないだけの存在。今のだって明らかに真選組への対抗心から始まった論争だもの。


「だけどまぁ、銀時が心配するのも無理ないかもねぇ」


その言葉に再び首を傾げる。


「そんなに信頼を置いていい相手かって訊かれたら、簡単に頷くことは出来ないだろうさ」


そう、なのだろうか…?
真選組ってそんな組織なのだろか?だって総悟も土方も近藤も、出会って嫌な感じはしなかった。むしろ好印象。

「あっちは男だらけだしねぇ」


まぁそれはそうだろうけれど。男と女の関係を気にしているのなら、それは心配ない。だってあたしなんかを彼女にしたがる人はよっぽどの物好き。そんな関係を築ける人なんてなかなか巡り合わないだろう。


「でもまぁ、夢玻がそんなに働きたいってなら、ここで働いてみるっていう手もあるよ」


…え?
その言葉に首を上げた。


「なんだい不満でもあるのかい?」


一瞬ぽかんとしてしまい、急いで空いた口を引き結んでその言葉にぶんぶん首を振る。
いやちょっと、あたしなんか雇っていいのかなって疑ってしまっただけで。だってそんなふうに誘ってもらえたの初めてだから。あ、初めてじゃないか、総悟に女中やらないかと誘われている最中じゃないか。でもそれくらいあたしにとって誘ってもらえるって貴重なことで。今までバイトを真剣に探したこともなかったのだけれど、誘ってくれたことに心が弾む。
だけど接客にはどう考えてもむいていないあたし。その心配をメモに綴ると、


「仕事はそれだけじゃないさね」


当たり前と言わんばかりにお登勢は煙草をふかす。
そっか、そうだよね…仕事はそれだけじゃないよね。
なんだか心の底がじわりと温かくなる。お登勢のところなら銀時だって反対はしないだろう。万事屋から近いし、きっと許してもらえる。
不思議だ…いつもは自分に務まるかとか、そういう心配ばかりしてしまうのに、今ここで働けるかもしれないっていう事実がただただ嬉しい。お登勢の言葉が心強い。安心できる。嬉しくなる。


゛銀時さんに話してくる゛


そう急いで書くとスナックお登勢を飛び出した。その様子をたまが微笑ましげに見詰めていたことにお登勢だけが気づいた。



階段をリズム良く上がっていく。

タンタンタンタンッ

楽しげに聞こえるリズムに思わず口元が緩む。万事屋の戸は閉まったまま、中からは今もくぐもった言い争いが聞こえる。どうやって話を聞いてもらおうか考えながら戸を開くと、


「…!」


今まで聞こえていた話声がぴたりと止んで、全員が一斉にこっちを見た。思わず少し後ずさる。すると新八が笑顔で、


「おかえりなさい」


そう言った。笑顔で頷く。そしてその後、


「…夢玻、悪かったな」


銀時がちょっと言いずらそうにそう言ったから、あたしは訳も分からず軽くパニックになって、急いで銀時の傍に行った。なんで謝られたのか…。すると銀時はちょっと目を見開いた後柔らかく微笑んで、


「夢玻の好きなようにさせるのが、一番いいってことになったから」


そう言う。まさかの言葉に今度はこっちが目を見開いた。いったい、あたしがいない間にどんな話し合いが行われたのか分からないけれど、


「真選組で働きたいならそうすればいい、ただし昼間だけな」


あたしの意思を尊重するなんて結果になるとは思っていなかったから、あたしは思わず首を振って、


゛わたしは銀時さんの意思を大事にします゛


そう書いて見せた。だって、ここに住まわせてくれているのは銀時だもの。銀時が少しでも嫌だと感じることはしたくない。
首を傾げる銀時、神楽、総悟に先ほどのことを伝えた。すると、


「やれやれ、そいつは残念でさァ」


総悟が伸びをしながら言う。


「でも、良かったですねィ」


その言葉に笑顔で返す。今回で一番迷惑かけたのはたぶん総悟だから、どんな反応をされるか正直心配だっただけに、その反応はとても嬉しくて安心した。銀時の方を見ると、少し目をぱちぱちさせていたけれど、


「夢玻がそれでいいんなら」


そう言って、やっぱり笑ってくれた。
けれども、


「じゃあ仕方ないんで、夢玻は依頼として借りてくことにしまさァ」


その言葉に皆一斉に総悟を見る。


「真選組が女中を欲しているのは事実でねィ。募集かけてもなかなか集まらないんでさァ」


総悟が言うにはあまりのむささに原因があるらしい。集まった女中さんも、その状況に三日とたたず辞めていくのだとか。男目当てに来る人もいるらしいが、そんな人に女中が務まるわけもなく、そういう人は真選組の方から断らせてもらうらしい。当然と言えば当然か。


「まぁそういうわけで、ちょくちょく来ると思うんでよろしく」


銀時は少し渋い顔をしていたけれど、


「まぁ万事屋だしな」


と溜息交じりに承諾した。


「俺らも行けばいいし」


そうぼそりと呟いて。
しかしその呟きを総悟が逃すはずもなく、


「付いてくるのはいいですけど、そこのチャイナだけは勘弁願いやす」

「ああ??どういうことか言ってみろヨ!」

「お前絶対どっか破壊してくだろィ」

「失礼アルな!!神楽様が直々にお前らの世話してやるって言ってんだから有り難く思えヨ!!」


再び乱闘が始まる予感。でもそんな状況も今は楽しく見える。誰かに必要としてもらえるって素敵なことだって、あたしは誰よりも知っている自信がある。





╋眼鏡ボーイの知られざる活躍╋





20091112白椿

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