「本当にあたしも行くの?」
「なに言ってんの、当たり前でしょ」
「吉原に…かぁ」
「うん」
少し重たい気持ちを引きずりながらも着々と地球に着陸する準備をする。最初は軽い冗談かと思っていたのだが、どうやら本当にあたしも行くらしい。正直あんまり行きたくない。仕事とはいえ吉原だ。遊女さんたちが沢山いる。そんなところには小指の先ほども興味はないし、第一にあたしには吉原に行くメリットがない。たとえ欲求不満であったとしても、あたしが吉原で満たされることはないだろう。だけど神威団長にはメリットがある。綺麗な女の人とヤり放題なんだから。
「…行きたくないなぁ」
ボソリと零れる言葉。別に神威団長が吉原に行くことはかまわない。体を重ねるなんて行為はまだやる自信ないし、それのせいで神威団長が欲求不満なのも嫌だ。だから、神威団長がどっかの誰かと一晩過ごしたってかまわないんだ。ただ、それを実際目の当たりにすることになるのが嫌だ。誰かと一緒にそういうお店に入って行く、その場面を見たら、あたしだって傷つくさ。あたしの知らない所でやってほしいのだ。
「えー、そんなこと言わずに一緒に行こ、きっと楽しいから」
「楽しいのは神威団長だけですよ」
「あ、また敬語戻ってる」
「…ペナルティーですか…?」
なんか気分が重たい。さっきはしゃいで巻いた包帯を淡々と外していく。今思うとバカなことではしゃいだなぁなんて可愛くないことを考える。虚しくうなだれた包帯をグシャグシャと丸めて握り締める。
「あり?どしたの?機嫌悪い?」
神威団長が大きな瞳をパチパチさせて覗き込んできたので目を逸す。なんか敬語直すのも呼び捨て頑張るのも一気に疲れを感じた。なんで急にこんな風に思うのか分からないけど、ただ吉原に行きたくなくて、知らない女の人と一緒にいる神威団長を想像するとさらに嫌な気分になる。
「吉原、行きたくない…なぁ」
「なんで?」
「…」
「なんで?」
「あたしにはメリットないです」
「そんなことないよ」
事も無げに言う彼を振り仰ぐと満面の笑みだった。
「あたしのメリットって何ですか?」
「俺が一夜の過ちをおかさないよう見張れるよ」
「…」
あたしは首を傾げた。
「あたしが見張ったら、神威団長欲求不満のまんまじゃないですか…」
「うん、まぁね」
意味が分からない。
「あたしは神威団長が欲求不満を我慢するのは嫌です」
「じゃあ雛が満たしてくれればいいでしょ?」
「…無理です」
「あっはは、だから今は俺我慢するわけ」
何を言えばいいのか…。神威団長ってこんなに優しかったかしら。
「…神威団長優しくなりました?」
「え?俺は生まれた時から優しさに満ち溢れているよ」
「…くすっ」
「なんでここで笑う?」
あーあ…。なんか、どうしよっか…。あたしが小さな溜め息を吐いたら神威団長も溜め息を吐いて言う。
「雛、」
「…なに?」
「もう少し俺を束縛してくんないかなぁ」
「え…?」
「俺はね、束縛されるのは嫌いなんだ。だけどね、こんなにいろいろ許されちゃうのもちょっと寂しいよ」
あたしはニコニコ話す団長を見つめた。神威団長はあたしの頭を優しく撫でて言う。
「もっと俺の彼女として胸はってて。雛はそこらの女よりずっと可愛いよ。自信持ちな。それとも、それほど俺のこと好きじゃないとか?」
あたしはブンブン首を振った。好きだよ。本当に大好き。
「大好き…」
神威団長はふんわり笑うと、そのまま触れるだけの口付けをしてくれた。不思議と今までみたいな恥ずかしさを感じなかった。愛しさが上回っていた。
君は可愛い俺の彼女
三次元少女は愛し愛すことを知った
20090415白椿
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