暫くして、そろそろ団長室に戻ろうとしたらちょうど紅衣さんが出てくるところだった。


「紅衣さん」

「あ、やっと戻ってきてくれた。もうトランプはお開きよ。神威団長会議に呼ばれて行っちゃったわ」

「そうですか…」


あたしは少し勇気を持って口を開く。


「神威団長、どんな感じでしたか?」

「なーんにも変なところ無かったわよ。雛さんの思いすごし」

「…そうですか」

「心配なんてしない方がいいわ。逆に雛さんが何かに悩んでると、神威団長心配するから」

「…」


紅衣さんはそう言うと可愛らしく微笑んだ。合わせて笑顔を作ってみるけれど、本心から笑顔はつくれなかった。だって正直心配はぬぐいきれていないもの。紅衣さんはああ言っているけれど、もしかしたら多少あたしに気を使っているという可能性だってある。頼んだのはあたしだけど、いざ結果を聞いてみるとどうにも信じきるのは難しかった。どうしようか…


「紅衣さん、ありがとうございました」

「いいえ」

「またこれからも、団長室来て下さいね」
「…うん」


どっちにしたって、今の状態ではあたしどころか神威団長だってろくに仕事が出来ない。あたしが団長室にいる限り神威団長は団長としての仕事が出来ないのだ。阿伏兎さんのくまが色濃くなっていくのもきっとそのせい。だったらやっぱり、あたしが団長室にいることはあまり望ましいことじゃないのだろう。やっぱり藍斗さんが言うとおり、少しはこの春雨の役に立つことして、そんで団長離れしてみようかな。


翌日、いつものように簡単なお掃除をして、団長に言われた通り団長室でおとなしく時間が過ぎるのを待つ。今日も団長は元老さんたちと会議らしい。あたしは、何もすることがない。役立たず…だな。何もできない。神威団長が戻ってきたら藍斗さんと話したことを言ってみるつもりだ。でも、いつ戻ってくるのやら。
この前資料室で借りてきた本を開いてみる。でも集中できなくてすぐに閉じた。やることがない。やりたいことも見つからない。


「…はぁ」


仕方ないので瞳を閉じた。





―――――**





会議から戻ってきたらソファで眠る雛がいた。なるべく音をたてないように彼女に近づくと、静かな寝息が聞こえてくる。


「…はぁ」


しばらくこのままでもいい…


あの日雛に言った言葉は半分嘘で半分本当。あのまま何も起こらずにただ雛と楽しく過ごしていれば俺の最後は夜王と同じだっただろう。今回の事件は俺にそれを気づかせてくれた。だから、半分は本当なんだ。だけど、その事件を起こしたのは俺で、彼女を傷つけたのは俺で、だから謝りたいのに、今の彼女はそれをすることも許してはくれない。考えても考えても疲れるだけで答えは出ない。とりあえず、このまま溺れずに済む方法を見つけなくちゃ…

疲れた…なんだか疲れた。雛の隣に腰を下ろして同じように瞳を閉じる。ごめんよ雛…なんだか君のことを考えるの、疲れてしまったよ。ちょっと休んでいいかな…?ちょっとだけ…ごめんね。


目が覚めると温かい毛布が少しずり落ちた。誰がかけてくれたんだろうと考えれば思い当たるのは一人しかいない。でも、隣を見ると雛の姿はなくて、すぐに部屋を見渡してみてもその姿は無かった。毛布は嬉しい、でも、君がいないとどこか虚しいと感じてしまうのは、決して俺が弱いからではないよね?
暫く戦場にでも出てみようか。きちんと区別すること学ばなくちゃ。雛は雛、戦場は戦場。どうかその区別がつけられますように。彼女が俺の弱点だと分かってしまった以上、これ以上溺れることは許されない。今の彼女にこれ以上振り回されてはいけない。今の雛を野放しにするのは心配だけど、俺もずっと毎日こんな生活していたら堕落してしまう。立て直しをしなくては。


「…どこ行ったのかな」


とりあえず雛を探して話をしよう。毛布のお礼を言って、それから任務の話をして…。部屋を出て通路を歩く。暫く歩いてそして歩みを止めた。


「…だから今度の惑星に着陸したら買い物でも一緒に行きませんか?」


いつぞやに聞いた男の声。


「いいですね」


そしてそれに答える雛の声。すぐに引き返す足。もういいよ、そうだよ。任務に雛は関係ないんだから。
俺は彼女に何も言わずに長期の任務へと出る。









嫉妬の連鎖

どいつもこいつも邪魔ばっかして





20100306白椿


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