「ねぇ、トイレにしては雛遅くない?」
「…そうですね」
やっぱり、席を立つ理由がお手洗いではそうそう長持ちしない。わたしは少し冷や冷やしながら悟られないようにトランプを配っていた。
―――――**
本当にトイレに行きたかったわけじゃないからプラプラと通路を歩いてみる。団長今どんな感じだろうなぁと想像しながら、紅衣さんと二人でなら多少くつろげるかなぁと思いながら。この際今までの鬱憤を紅衣さんに打ち明けてくれればいいのになぁと思う。そうすれば団長の気持ちは多少晴れるだろうし、紅衣さんも団長にお近づきになれて一石二鳥じゃないか。無力な自分に溜め息しながら歩を進めていれば、
「あ、本宮さん」
「あ」
藍斗さんがこっちに歩いて来ていた。手にはたくさんの、
「それ、何ですか?」
「あ、武器ですよ。今度の戦場での準備をしているんです」
「そうなんですか…」
「本宮さんは何しているんですか?」
「…特に、何も」
「え?」
藍斗さんは少し不思議そうにこっちを見る。でもすぐに笑顔を作った。
「じゃあ、一緒にこれ運んでくれますか?」
「え?」
そう言って差し出されたのは、藍斗さんが沢山持っている武器の一つ。小さなナイフだった。
「…いいですよ」
そのままいくつか受け取り一緒に歩きだした。
「…けっこう重いんですね」
「大丈夫ですか?重かったら俺にパスして下さい」
「大丈夫です」
二人の足音と、武器が擦れ合ってガシャガシャと金属音が響く。何もしていないよりは随分いい。ただ黙々と運ぶことに従事していれば、隣から低い優しい声。
「何かありました?」
見れば藍斗さんが優しい笑みをこちらに向けていた。
「何か…って?」
「何かあったって顔してますよ」
「…藍斗さんは人を見るの得意なんですね」
「はは、やっぱり何かあったんですね」
「何かあったってわけじゃないんですけど…」
そこでまた沈黙してしまう。二人の足音と武器が擦れ合う音。ガシャガシャとやたら大きく響く金属音。
「まぁ、喋りたくなかったらいいんですけど、もし話してくれるなら聞きますよ」
「…ありがとうございます」
優しく響く彼の声。ふと、泣きたくなる。
―――――**
つまらなさそうな、少し悲しそうな彼女の顔。チラっと眼球だけ動かして様子を覗う。神威団長と何かあったのだろうか…?この前惑星をお散歩していたときもあまり幸せって感じではなかったし。
暫く黙ってみるけれど彼女が話しだす気配はない。どうしたもんかと考えていれば、
「…ちょっと、一人で頑張ってみようかと思って」
ふと唐突に本宮さんはそれだけを小さく呟いた。
「一人で?」
「はい…こうやっていつも神威団長の傍にいても、神威団長もわたしも遊んでいるだけで全く仕事してないから…」
「…いつも遊んでいるんですか?」
「…そうなんです」
それから、本宮さんの最近を聞く。そして、今お友達に神威団長の様子を見てもらっていることも。
「…そんな心配いらないと思いますけどね」
「…紅衣さんにも同じこと言われました」
力なく笑う姿は見ていて切ない。
「でも、どっちにしたってこのままあたしが団長室に居座るのはよくないと思うんです」
「…そうですかね」
「はい、阿伏兎さんもどんどん疲れた顔になっていってるし」
「…」
あのおじさん最初から疲れたような顔してたからあれが普通だと思ってたけど、やっぱ疲れてたんだなぁと思い彼を心の中で労う。
「神威団長は本当に本宮さんのことそんなふうに思っていないと思いますけど、もし本宮さんがどうしても気になるっていうなら、ちょっと俺が仕事探してみましょうか?」
「え?」
「俺たち平隊員の部屋はここの二つ下の階なんですけど、実はそこの階って管理が微妙なんです」
「微妙?」
「そう。つまり掃除されてんだかされてないんだかってことです」
なんせ平隊員の階なので、そうそう管理なんて厳しく行われていない。すっごい汚いわけでもないけれど綺麗なわけではないのだ。
「そうだったんですか…そんなとこで寝泊まり嫌じゃないんですか?」
「うーん、そんなに気にならないですね。他の団員も文句言ったりする人いないし、まぁ皆さん戦場渡ってますからそれくらいの汚れはって感じです」
「…そうなんですか」
「団長に許可もらって、そこの掃除任せてもらえば、その掃除の時間はお互い別々で仕事できるでしょ?」
「…」
「別にいきなり全部一人でやろうとしなくていいじゃないですか。ちょっとだけ団長離れのつもりみたいな感覚で」
「…そうですね、ありがとうございます」
見ればまた柔らかく笑っていて安心した。
「俺からも団長に頼んでみましょうか」
「いえ、そこまで迷惑はかけられません。あたしが言ってみます」
「そうですか?じゃあ俺はあそこのお掃除の仕組みがどうなってんのか隣のおっさんに聴いてみます」
「隣のおっさん?」
「最近仲良しになったんです。隣の部屋にいる団員のおっさん」
「へぇ」
「もし話が決まったら掃除の時間とか教えて下さいね」
「どうしてですか?」
「俺も手伝いますから」
「…手伝ってくれるんですか?」
「一人で野郎ばっかの空間のお掃除は嫌でしょ?」
「いえ、そんなことはないですけど…藍斗さんいてくれたら嬉しいです」
頼りにしてくれたことが、何でかすっごく嬉しかった。
進展は止められない
良い方向にも悪い方向にも
20100304白椿
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