なんだかモワモワしてて気持ち悪かったから叫んでみたら隣の部屋のおっさんに煩いって怒られた。仕方ないから叫ぶのを止めたら、またモワモワしてきたから今度は壁に頭を思いっきり打ちつけるという行動に、


「だからうるせぇって言ってんだろぉがぁぁぁあああああ!!!!」


また怒られた。


「ごめんなさい」


素直に謝ったら許してくれた。今度こそ大人しくしてみる。


モワモワモワモワ


おいおいマジ勘弁してくれよ自分。生まれて初めての恋、略して初恋の相手があの団長の彼女さんだなんて笑えないぞ。笑えないどころの騒ぎじゃない。完璧殺されるぞ俺。


「なぁんでよりによって…」


心を落ちつけて考えてみる。この場合、やっぱり何もせずに気持ちを押し込めておくことが一番賢いと思う。だってどう考えても団長は本宮さんのこと好きだもの。手なんて出してみろこの世で一番残酷な死に方しそうだ。


「だけど…だけどだけど」


今本宮さん記憶喪失なわけで、彼女としてはフリー状態なわけで、俺が冗談のつもりでした告白にあんな可愛い反応してくれたわけで…!!


「んぎゃぁあああああああ!!!!」

「だからうるさいんだって!!!俺明日任務ぅぅうううう!!!!」

「おっさん聞いて下さいよーーー」


怒鳴りこんできた隣の部屋のおっさんにとりあえず話してみたら、案外ノリノリで相談にのってくれた。





―――――**





前向きに頑張ってみようと思っても、考えてみたら、わたしって恋愛経験が豊富なわけではない。今さら純情振りかざすことなんて出来ないけれど、目標は神威団長ってずっと思ってきたから、他の男の人に興味を抱いたことなんてないし、仕事上で色目を使ったことはあれ、神威団長にそれが通用するとは思えない。


「やっぱり小さいことからコツコツと」


雛さんに提案されたみたいに、トランプとかそういうことでコミュニケーション取っていくのがいいのかもしれない。お友達だけどライバル…そんな彼女の提案にのってみるっていうのは少しずるい気がしないでもないけど、そんなことでもしない限り、わたしと神威団長の距離は縮まらない。


「行動あるのみ!!」


小さくガッツポーズ。一緒にトランプしようって誘ったのは雛さんだし、気に病むことはあるまいよ。少しドキドキしながら団長室へと向かってみた。ノックを三回。


「はーい」


中からくぐもった声。それは雛さんの声で、


「あ、紅衣さん!!」

「こ、こんにちは」

「どうぞ入って下さい」


あの日のように笑顔で迎えた彼女越しに部屋の中を覗うも、


「あれ?団長は?」


神威団長の姿はなく、


「すぐ戻ってきますよ。今阿伏兎さんに呼ばれて出て行ってしまって」


阿伏兎さんとは、わたしが初めてこの第七師団へやって来たときに自己紹介をしたおじさんだ。雛さんはあのおじさんとも親しいのだなと思うと、やっぱりここに来てからの長さ、積み上げているものがわたしとは全然違うのだなと少し弱気になってしまう。


「お仕事片付いたんですか?紅衣さん、あれから全然来てくれなかったからお仕事忙しいのかなぁって思って、」

「ええ、今少し時間が出来たから…来てみようかなと思って」

「待ってたんですよー」


そう言って、また紅茶とかお菓子の準備を始める雛さん。机の上を見たら、トランプと本と、それからマグカップが二つ。二人で生活しているんだなぁと肌で感じた。また醜い心が渦巻く。それを抑え込んで、


「あまり気を使わないで、大丈夫だから」


笑顔を作ってそう言った。でも雛さんはそんなこと言わずにと、机の上に三つめのマグカップを置く。二人の間に、少しでも入り込めるだろうかとマグカップに問いかけてみる。いや、二人の間にと言うよりは、神威団長の心の中に入り込めるかどうか…か。でも、今団長の中のわたしはどうやら最悪な女みたいだから、これ以上悪化することはない。浮上していくのみだと信じよう。ぼんやりと沈み込む気持ちに浸る。遠くでこちらに近づいてくる足音を聞いた。


「あ、戻ってきたみたいですよ」


その言葉に心臓がドキリと音をあげる。不安と期待に体が熱くなった。










二人と一人

雛さんに負けないように、笑顔をつくる。





20100210白椿


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