やっぱり、鉄臭い戦場は心地よい。大きく息を吸って吐き出せば余計な思考が薄れていく。だいぶ血で汚れた服を見降ろして、遠くに蠢く弱いカス共に一瞥。まだまだ戦場は終わらない…ちょっとでも強い奴があの中にいたらいいんだけどね。いなかったらただ疲れるだけでいやだなぁと思って溜め息した時、すぐ隣を風が横切った。
「あれ?」
見れば見覚えのある男。黒髪のあの青年が鋭い殺気をまき散らしながら、口にかすかな笑みをのせて敵陣へと突っ込んで行った。
「…へぇ」
少しだけ背筋に痺れが走った。アイツ、それなりにできるみたいだ。
「…いつか一戦交えてみたいなぁ」
純粋に、雛のこと抜きにそう思った。俺も彼に続く。敵陣に潜り込んで素早く捌いていく。強い奴を求めて弱い奴を殺していく。だけど結局めぼしい者は見つからなくて、気づけば春雨の団員を残して戦場は終焉を迎えていた。
「…つまんないの」
あーあ、ホントつまんないの。でもこれ以上ここにいてもしょうがないわけで、皆に続いて引き返すことにした。そうと決まれば速く帰らなくちゃいけない。船には雛を一人残しているわけで、今彼女は無防備状態だから。
「よし、早く帰るぞー」
駆け足で雛のもとへ。
「雛ただいまーー」
「あ、お帰りなさい」
「ん?」
お風呂で血を落としてから団長室へ。そこにはいつもの彼女がいたのだけど、机の上にティーカップとトランプ。
「…誰か来てたの?」
そう問いかけると雛は嬉しそうに笑った。
「はい、お友達です」
「お友達?」
「紅衣さんです」
「くいさん?」
「前に団長に挨拶に来た新人の女の子ですよ」
「…」
…え、よりによってアイツ来てたのかよ
という言葉を呑み込んでふーんと言っておく。すぐに雛の前身をチェック。特に傷や痣が出来ているわけではないようだ。やっぱり出会ってすぐに忠告しておいて良かったと胸をなで下ろす。
「ってか友達?」
「えへへー、友達になってくれたんです」
「…そう」
何か企んでないかなーと心配してみる。でも、見たら最近見てなかった雛の本当に嬉しそうな笑顔。…ここ最近ずっと俺の傍に縛りつけていたから、やっぱり、他の人との接触も必要だよネ…と。
「雛、」
「なんですか?」
「良かったネ」
「はい、神威団長、仕事はどうでしたか?」
「うーん、今回も強い奴いなかったからなぁ、あんま楽しくなかったかな」
「…そうですか」
「ねぇ、せっかくトランプ出てるし、一緒にやろっか」
「はい」
とりあえず、何もなかったようで良かった。でも、今度からは手元に縛りつけておくだけじゃなくて、どこかに連れだしてみようかと思う。そうだよ、こんな窮屈なことばかりしてたら雛だってストレス溜まるよね。
「ねぇ、雛」
「なんですか?」
「今度停泊予定の惑星ね、大きな湖あるんだって」
「へぇ、いいですね」
「一緒に散歩行こうか」
「わ、本当ですか?」
「うん」
今まで、こうやって積み上げてきた思い出を彼女は忘れてしまったけれど、俺の中にはちゃんと存在しているから。だからこれからもそれを積み重ねて行こう。
前向きになれ
また、彼女の中の俺が一番輝くように
20100209白椿
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