なんか、すべての気力が薄い…。なんだこの気だるい体は…。溜息の数が増えて、疲れが数割増しで、


「明日から任務でちょっと出るよ」

「そうですか、頑張って下さいね」

「うん、雛、あのさ…」

「はい」

「…あのさ、」


あんま新人とは関わらないでね


そう言いたいけど、なんでか口が動いてくれない。俺の顔、今阿伏兎になってる気がする。限りなく阿伏兎に近づいていってる気がする。


「なんでもないや」

「…?」


束縛したいわけじゃない。制限したいわけじゃない。雛は決して俺のモノじゃない、一人の意思を持った人間なのだから。俺のこと認めて一緒にいるって選択してくれた、優しくて大切な存在なのだから、と考えて気持ちを呑み込む。
前の俺だったらさ、たぶん言えたんだよなぁ。

雛は俺のモノだから…

なーんて理由で。


一つ溜息。

前の方が楽だったなぁと思う。だけど…ね、もう知ってしまったんだよ。雛はモノじゃない。

雛は俺のモノだよ

そう言うことが許されるのは、彼女が俺の傍にいることに喜びを感じてくれている時だけ。所有宣言とは、お互いに望んで初めて認められる言わば特権。相手の気持ちを無視しての所有宣言は言わばウザったいゲスの戯言なわけで。

そういう地球産の考え方を、雛に出会ってからいっぱい知ってしまったからやっかいだなぁと思う。だけど、本当に手に入っていた時はそれが心地よかったのも事実で、その代わり、手に入らない辛さも今味わっているわけだ。でも、それでもいいと今は思っている。雛が夜兎を理解しようとしてくれたように、俺だって地球産を理解しなくちゃいけない。これからも雛といるつもりなら理解しなくちゃいけないと思う。それは、俺自身が地球産のようになるということではない。俺は夜兎。夜兎だから夜兎のように生きて行く。そんな中で、それでも地球産の考え方も頭の片隅に置いておこうということ。
だけどまだ完全に理解できたわけでもないから、だから迷う。


「神威団長、どうかしましたか?」

「ううん、何でもないよ」


やっぱり、思い出すまでゆっくり待つしかないかな。思い出してくれる保証なんて無いけど、信じて待つしか俺には出来ない。間違ってももう一回殴るなんてことしたくないし。

こんなふうに迷うようになった自分が、果たして成長したのか後退したのか…それは夜王を思い出せば答えが出る。後退しているのだと。

戦場は戦場、雛は雛

そう言い聞かせて、任務に向けての準備をする。大丈夫、戦場に出たら雛のことなんて気にならなくなるから。戦場と雛は別次元だからと。

こうして次の日、モヤモヤを抱えたまま俺は戦場へと向かった。


「神威団長いってらっしゃい」


そう笑顔で見送る雛の姿を確認して、軽く手を上げる。

何か、ややこしいことになりませんように

雛が記憶を失くしてから、初めて俺が彼女を野放しにしてしまうことになる三日間。何もありませんように。あわよくば快方へ…





神頼みなんて
したのいつぶりだろうか





20100201白椿



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